劇場公開日 1984年12月15日

「既存の「怪獣映画」というよりは、「日本沈没」のようなリアリティを追求した重厚な「災害パニック映画」に近いアプローチ、大人になって見直すとドラマ性の高さに驚嘆します。」ゴジラ 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0既存の「怪獣映画」というよりは、「日本沈没」のようなリアリティを追求した重厚な「災害パニック映画」に近いアプローチ、大人になって見直すとドラマ性の高さに驚嘆します。

2025年7月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

ドキドキ

ゴジラ 70周年記念企画としてスタートしたゴジラシアター。
7月25日からは『ゴジラ(1984)』日本初公開の4Kデジタルリマスター版上映。

『ゴジラ』(1984年/103分)
ゴジラ生誕30周年記念作品で『メカゴジラの逆襲』(1975)以来9年ぶりの新作。
今でも人気の高いアイヴァン・ライトマン監督『ゴーストバスターズ』、ジョー・ダンテ監督『グレムリン』とほぼ同時期の年末公開で【3G決戦】と呼ばれて盛り上がっていました。
わたしは迷わず本作を選択、劇場ではじめて観る新作のゴジラ映画でしたね。

「1954年の(初代)ゴジラが出現してから30年ぶりに日本に襲来」という設定で第2作『ゴジラの逆襲』(1955)以降を一旦完全リセット。

本編パートは2つのストーリーが同時進行。

ひとつは、ゴジラの帰巣本能を発見して三原山の活火山に誘導させようとする生物学者・林田信(演:夏木陽介氏)はじめ理学生・奥村宏(演:宅麻伸氏)と彼の妹でもあり林田の研究所助手・尚子(演:沢口靖子氏)、ゴジラの襲われた奥山を救出した新聞記者・牧吾郎(演:田中健氏)の活躍。

もうひとつは、30年ぶりのゴジラの日本襲来への応戦や、領土内での戦略核兵器によるゴジラ殲滅を主張する米ソ超大国との外交交渉に当たる内閣総理大臣・三田村清輝(演:小林桂樹氏)や閣僚、自衛隊員の苦悩と葛藤。

既存の「怪獣映画」というよりは、「日本沈没」のようなリアリティを追求した重厚な「災害パニック映画」に近いアプローチですね。

特に閣僚・高官のキャスティングには総理役・小林桂樹氏を筆頭に小沢栄太郎氏、内藤武敏氏、金子信雄氏、加藤武氏、鈴木瑞穂氏、織本順吉氏、田島義文氏と豪華ベテラン名優が勢ぞろい、各々実に味のある演技。
庵野秀明総監督『シン・ゴジラ』(2016)のように、もっと首相官邸の動静や閣僚たちの掛け合いにフォーカスしたストーリーも観たかったですね。

特撮も当時開業したばかりの有楽町マリオンを中心とした数寄屋橋交差点周辺、新宿副都心のビル群のミニチュアも精巧でリアル。
なかでもマリオンのガラス窓に映りこむゴジラが不気味であり美しいです。
初代の50mから80mに一気に伸びた身長ですが、それでも200m級の新宿副都心のビル群のなかでは非常に小さく、高度経済成長期に追い抜かれた戦後の象徴のようで実にシンボリックに感じます。
全高5mの各部が稼働して目や口元、鼻の動きがリアルな表情の「サイボットゴジラ」や等身大の「ゴジラフット」など新技術も積極的に採用していました。

初見の幼少期は怪獣映画として物足りなさを感じましたが、大人になって見直すとドラマ性の高さに驚嘆します。

すぐに次回作公開を期待しましたが『ゴジラVSビオランテ』(1989)が公開されたのは5年後。脚本を公募し推敲を重ねた同作はバイオテクノロジーへの警鐘などのテーマ性、『007』さながらの国際スパイアクションをはらんだシリーズ屈指の名作で、本作を上手く昇華させましたね。

矢萩久登
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