「四大怪獣ではないのか?!」三大怪獣 地球最大の決戦 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
四大怪獣ではないのか?!
ゴジラ誕生10周年に製作されたゴジラシリーズの5作目。
資料によると、タイトルの三大怪獣にはキングギドラは含まれないとのこと。
本作が初登場となるゴジラ永遠のライバル・キングギドラ。ハリウッドデビューも果たしたが、あらためてアナログで拝見すると、見るからに操演が大変そう。
「次また使うから」と言われて「勘弁してよ…」と思ったスタッフ絶対いた筈。
子供の頃、既にゴジラはアイドル化、マスコット化していたが、本作はその嚆矢。
モスラが登場する理由付けに子供を使うなど、大人が観賞する作品からの変質はここから始まり、怪獣の擬人化・戯画化は本作以降、いっそう進むことに。
金星人の意識に憑依されるセルジナ国の王女サルノを演じるのは、のちの国際派女優・若林映子(あきこ)。黒澤明監督の歴史大作『隠し砦の三悪人』のヒロイン雪姫役に応募したことが映画界入りのきっかけだとか。
代わって同作に起用された素人女優(という点では当時の若林も同じ)はいきなり大作に抜擢されたことへの重圧や周囲の口さがない雑音に耐えられず早々に映画界から姿を消したが、もし採用されたのが若林なら、彼女のその後のキャリアはどう変化していたか興味深い。
黒澤作品の常連で、既に世界的にも知名度の高かった志村喬は山根博士役で『ゴジラ』(1954)に出演して以来、義理固く(?)特撮にお付き合いしていて、本作でも塚本博士を好演。
「何だかこっちが診察されてるみたいだな」というセリフの場面は単純だが、余人には真似出来なさそう。
登場するインファント島の住民はステレオタイプの未開人だし、欧州の小国セルジナの要人は日本語で会話してるし日本の新聞も読めちゃうしと、今なら突っ込みどころ満載のデタラメな描かれ方だが、間違いなく対比の構図で使われている。
怪獣のモスラを守護神と崇め、平和と幸福を祈るインファントの島民に対して、はるかに高度で文明的なはずのセルジナでは政争を理由に簡単に人の命を奪う。文明批判は東宝特撮シリーズの多くに見受けられるが、本当に幸せなのはどちらなのかと問い質されているような気がする。
本作が製作された当時は東西冷戦の真っ只中。作中でもセルジナを左右両陣営の紛争に巻き込まれていると紹介する場面がある。
三大怪獣が会話するシーンは陳腐といえば陳腐。そもそも種類が違うのに話通じるのかという素朴な疑問も。
だが、当時の時代背景を念頭に見方を変えれば「種の異なる怪獣でも話せば分かり合えるのに、どうして人間は…」というメッセージにも受け取れる。
作品の最終盤、三大怪獣の共闘でキングギドラが圧倒されるなか、避難中の住民が「これで村は全滅だ」と哀しそうに呟く場面が印象的。
どんな戦争でも必ず被害は伴う。
いい加減、争いごとは物語の世界の中だけにして欲しいとあらためて感じる。
BS12トゥエルビにて観賞。