劇場公開日 1983年3月12日

「りんたろう監督が当時新進気鋭の大友克洋氏を起用したのは鋭い見識、『AKIRA』誕生のきっかけになったことは特筆すべきトピックスですね。」幻魔大戦 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0りんたろう監督が当時新進気鋭の大友克洋氏を起用したのは鋭い見識、『AKIRA』誕生のきっかけになったことは特筆すべきトピックスですね。

2025年6月16日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

斬新

ドキドキ

新文芸坐さんにて『日本映画変革の時代 角川映画の出現』と題した角川映画の特集上映開催中(25年6月11日~21日)。
本日は角川映画アニメーション第1作の記念大作『幻魔大戦』をりんたろう監督、映画史家・伊藤彰彦氏のトーク付きで鑑賞。

『幻魔大戦』(1983年/135分)
『宇宙戦艦ヤマト』(1977)がSFアニメブームの火付け役となり、りんたろう氏が監督した『銀河鉄道999』(1979)、『機動戦士ガンダム』(1981)、『伝説巨神イデオン』(1982)と次々に劇場公開され過熱、本作が公開された1983年春にひとつのピークを迎えましたね。

本作も角川映画の得意のメディアミックスでCMも大量投下、「ハルマゲドン(最終戦争)」というワードも認知、浸透していきました。

公開当初は製作・原作に石ノ森章太郎氏の名前が記載されていたので、サイキック版『サイボーグ009』の印象でしたが、キャラデザインが先生の描くタッチと異なるので不思議に思っていたのですが、りんたろう監督が当時新進気鋭の大友克洋氏を起用したのは鋭い見識、『AKIRA』誕生のきっかけになったことは特筆すべきトピックスですね。

映像表現も今ではすっかり定着した『超能力を発動した際、キャラクターの全身が光って強烈なオーラが立ち込める』も本作が最初でした。

音楽は英国のプログレッシブ・ロック・バンド「エマーソン・レイク・アンド・パーマー」のキース・エマーソンが担当。シンセサイザーを活用した雄大、荘厳な讃美歌のような劇伴、ローズマリー・バトラーが歌唱する主題歌『光の天使 / Children Of The Light』も含めて、今でも強烈な印象が残っております。
80年代は海外アーティストが映画主題歌を担当することが実に多かったですが、どの作品も壮大な大作感が醸し出されるのが良いですね。
アニメや邦画が世界に紹介されている昨今、言葉の壁を越えるため、もっと洋楽を活用すべきと思うのですがどうなのでしょうか。

日本アニメ史にとってもエポックメーキングな作品ですね。

本編終了後は貴重なりんたろう監督、映画史家・伊藤彰彦氏のトーク。
角川春樹氏との出会いや人となり、角川アニメ第1弾として既存の映画業界のシステム対する抗いや気概、公開前日深夜に長蛇の列が劇場を取り囲み急遽深夜に初回上映を行った話や、アニメはあくまでも『映像表現のツール』として捉え、一つひとつのショットにこだわり、王道のディズニーアニメと常に一線を画した表現を模索した話など貴重なエピソードが盛りだくさん。
さらにサイレンス映画時代のアルフレッド・ヒッチコック監督『下宿人』(1927)の映像表現の凄さや、特に影響を受けた1960年代後半の唐十郎氏や土方巽氏の新宿アングラ演劇や横尾忠則氏、俳句、建築、絵画の話などアニメ以外の文化芸術から情報感度を高め、絶えず自身の作品をアップデートさせているお話は実に勉強となりました。

今年84歳になられますが意気軒高、まだまだ創作意欲も衰えず新作に取り組んでいらっしゃるとのことで、次回作を楽しみしております。

矢萩久登