劇場公開日 1958年5月26日

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4.0やっぱり日本がNo.1…?

2022年11月7日
iPhoneアプリから投稿

『日本のいちばん長い日』『独立愚連隊』等で有名な岡本喜八のデビュー作。欧米式の軽妙洒脱なハイテンポコメディを巧みに再現している。特に冒頭部のまくし立てるようなナレーションとそれに合わせて目まぐるしく切り替わるカットは今見てもスピード感に満ちている。

緩やかな家父長制主義、あるいは無感動な夫婦生活になんとなく閉塞感を覚える姉は、確たる自己を持って自由奔放に振る舞う妹の生き様を羨む。彼女は妹とつるんでいるうちに、妹の知人である胡散臭い編集者に被写体の仕事を持ち掛けられる。彼女はそれを請け負うべきか否か、つまり「家庭」か「自由」かという二者択一を突きつけられ、深く懊悩する。

姉は「イマドキの生き方はこれだ!」と意気込む編集者の男に連れられ、街の風俗をあらかた経験するものの、ロックが鳴り響くダンスホールで愛も情もない抱擁やキスを交わす若者たちの姿に激しい嫌悪を催す。帰宅して夫の顔を見るなり彼女は自身の行いを懺悔する。夫は彼女を咎めることもなく、むしろ「今まで自由にさせてやらなくてごめんね」と自己反省までしてみせる。とはいえここでの夫の改心についてはほとんどプロセスも描かれていないため、急拵えの感は否めないが…

一方で自由奔放な妹は、あらゆる社交界を彷徨した果てに博学秀才で二枚目の男子大学生と恋に落ちるのだが、こいつが一番の食わせ者。品行方正で実直そうなのは表向きだけで、裏では数多の女を都合よく食い物にしていた。

「若いうちに吐き気がするほど恋愛をしとけば、後々になって妻以外の女に興味が湧かなくなる」と言って平然と浮気を肯定する彼の姿を目の当たりにして、妹は怒りと悲しみに打ちひしがれる。そして自分が欧米式の自由恋愛主義者には完全になり切れないことを自覚する。彼女が当初あれだけ小馬鹿にしていたお見合い結婚に活路を見出すラストシークエンスは何とも滑稽だ。

それぞれ異なる文化を持っていたはずの女たちが、欧米的恋愛観に対する拒否感から結局のところ二人揃って日本の伝統的恋愛観へと漂着するという筋立てには、欧米的なるものに対する岡本喜八の危機感のようなものを感じなくもない。本作公開後すぐにあの安保闘争が幕を開けるわけだが、本作にも欧米の政治的・経済的・文化的侵略に対する少しばかりの抵抗の意志があったのではないかと思う。

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