劇場公開日 1960年10月8日

「シリアスとユーモアの見事な融合に…」アパートの鍵貸します KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5シリアスとユーモアの見事な融合に…

2025年5月3日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

アカデミー賞では、
主演男優賞・女優賞こそは逃したものの、
作品賞・監督賞・脚本賞の主要3部門他を受賞
した、私にとっては「情婦」と共に
大好きなビリー・ワイルダー作品。
2作品共に、内容は至ってシリアス劇なのだが
作品から滲み出るユーモアのセンスは
どんなコメディ映画も敵わない。

主人公は出世のためなら手段を選ばない
本来は卑下すべき情けない人物なのだが、
何故か憎めきれない。
ある意味、素直な性格の人間像は
ジャック・レモンの演技からも
滲み出ているものなのかも知れない。

今回の再鑑賞では、
終盤での二人の恋愛成就とは異なる方向に
向かっているかに思わせておいての
逆転のエンディングには、
片想いの女性が上役の愛人だったとの事実を
踏まえながら異例の昇進をかなえた男と、
その上役の離婚という自体に
至りながらの女。
その二人がようやく獲得した地位を
捨ててまでも、
たどり着いた相愛への思索の描写が
多少性急過ぎるきらいはあるものの、
それまでの二人の想いの蓄積と、
女の自殺を切っ掛けとして共有した
介抱の時間の賜物だったのだろうと感じた。

この作品、
まともに作ったら、教条主義的な、
場合によっては、あたかも教育映画のように
なりかねないストーリーなのだが、
そこは流石にワイルダー作品、
本当に良く出来た脚本で、
上質なウィットを絡めながらの
各エピソードへの伏線の数々や
誤解の因果関係の設定がお見事!
と言わざるを得ない。
その中で、サブ的な要素ではあるが、
隣家のドクター夫婦が、最後の最後まで
主人公をお盛んな男として誤解している
エピソードが私には大変可笑しかった。

日本では、
チャップリンの「独裁者」
フェリーニの「甘い生活」
ルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」
がキネマ旬報でのワンツースリーの年に
第17位と、
日本では今一つの評価だったようだが、
私にとっては、ワイルダーの演出・脚本と、
二人の主演俳優の見事な演技が相まった、
これこそが、シリアスとユーモアの
観点からの見事な融合作品であると、
改めて再確認する鑑賞となった。

KENZO一級建築士事務所
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