劇場公開日 1975年9月6日

「本作は政治だけを糾弾していないのです 金環蝕とは、日本の輝く繁栄の中心が、国民の腐敗そのもので真っ黒であることを描いているのです」金環蝕 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作は政治だけを糾弾していないのです 金環蝕とは、日本の輝く繁栄の中心が、国民の腐敗そのもので真っ黒であることを描いているのです

2020年7月27日
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鑑賞方法:DVD/BD

一昔前になりますが、都内のとあるバーで議員さんの秘書の方と知り合ったことがあります
その人は半年に一回来るくらいです
いつも深夜2時とかの超遅くに現れて、テキーラとかの強い酒を一気に飲み干すような飲み方の人でした
寡黙で仕事の話は一切口にしませんでした
彼の仕事がいかに神経を興奮させるものか
それを鎮めるためにどれほど強い酒が必要なのかを知りました

金環蝕とは日食の一種
太陽本体が月の背後に隠れて真っ黒になり、周囲のコロナが輝いて見えることからついた名前
2020年はコロナウイルス禍で幕を開けました
コロナウイルスの名前も、ウイルスの周囲にコロナのようなものが取り巻いているところから命名されたそうです

本作の公開は1975年
劇中の時代は1964年の秋から1965年の春にかけての物語です

ダム工事にまつわる政界汚職
総理夫人
秘書官の死
検察と政治の関係
次期総裁選
予算委員会への証人喚問

まるで現在進行形の言葉が飛び交います
原作から55年、映画化された本作から45年
それ程の年月が過ぎたのに全く変わりは無いのです

それは政治が変わらないから?
政治家が、政党が、悪いから?

違う
変わらないのは、国民がそうだからです
政治は国民の反映なのです

胃が痛くなりました
恐ろしいまでのリアリティです
デジャヴ感が半端ないのです

もちろん自分は政界など縁遠いし、まして政財界の中枢など知りもしません

しかし大きな会社や組織にいて、その中枢の近くにいたことがある人ならわかるはずです

こうだ
このとおりだと

何も変わっていない、変わらない
いや変われないのかも知れない
日本人の作る組織はこうなのだと

役員会の雰囲気、その部屋の内装、調度品
幹部達の顔つき、体型、服装、言葉遣い、身のこなし
徹底的な取材でモデルの人物に寄せているのだと思います
政治家は明らかにあの人物がモデルだと分かる登場人物もいます
しかし有名政治家以外の人物であっても、自分の知る誰かに似ているのはどうしたことでしょう
日本人の作る組織はどこも似てしまうのです

大手会社の専務や役員達はああです
あの感じです
料亭での接待もあの通りです
専務の接待術はそれはもう見事でした
日本人の組織の在り方を活写しているのです

本作は政治だけを糾弾していないのです
金環蝕とは、日本の輝く繁栄の中心が、国民の腐敗そのもので真っ黒であることを描いているのです
だからどんなに年月が経っても変わらないのです

政権が交代したところで同じだったのです
汚職がなくなったかというと無くなってはいないのです
それどころか、これ見よがしにダム工事を中止させたら、水害を起こしている始末です

エンドロールに駅のラッシュアワーの国民が写されるのは、そのメッセージなのです
この国民の中から仲代達矢が演じた星野官房長官に続く人間が次々に生まれていくのです
そして金環蝕が大写しになり、映画は終わるのです

さすが山本薩夫監督です
単なる政治批判では終わっていないのです

癖の強いおじさん俳優が大量出演して、名演合戦と化しています
特に大滝秀治の法務大臣が検事総長と話すシーンは最高峰の名演でした
無表情なあの目の怖さ!
背筋が凍りました

そして大手マスコミの堕落を、鈴木瑞穂と前田武彦の二人を狂言回しにしつつ表現しています
無責任なただの外野、見物人でしかないことを特に前田武彦がみごとに演じています
カメラに写る、彼の持つその存在の空気だけで滲み出ているのです
本当のジャーナリストというものはな!との罵声に、この二人は顔を見合わせて冷笑するのです
監督の強烈なメッセージでした

そしてもちろん宇野重吉
乱杭歯、胡麻塩頭などやり過ぎなほどの造形
逮捕前に身繕いをする時、着流しの前を解いて褌ひとつの貧相な身体を見せるのも素晴らしい演出でした
裸一貫に戻るとの暗示です
石原のビルの佇まいもデジャヴ感が強い見事なロケ地選定でした

残念なのはその石原参吉と仲代達矢の星野官房長官との正反対の対比を鮮明にだすと目論んだ映画の作りのはずなのに、その点が今ひとつ不発に終わっているように思えます
三國連太郎の神谷代議士のキャラ作りが強烈過ぎたのかも知れません

ともかく凄い濃い映画です
間違いなく傑作です

あき240