劇場公開日 1984年9月1日

「スーパーバイザー 難しいものです 映画はやはり監督が全てを仕切らないと駄目なのだと思います」北の螢 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5スーパーバイザー 難しいものです 映画はやはり監督が全てを仕切らないと駄目なのだと思います

2022年2月1日
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本作は1984年公開の五社英雄監督作品です

五社英雄監督といえば、1982年の「鬼龍院花子の生涯」がまず名前が挙がります
それほどの大ヒット作品でした
「なめたらあかんぜよ!」という高知弁の啖呵は日本映画の永遠の名台詞として記憶に残り続けるでしょう

翌年の1983年には「陽暉楼」が公開されます
これも宮尾登美子の高知を舞台にする原作小説の映画化で、これまた大ヒットとなります

そうなれば、次回作は同じく宮尾登美子の原作小説で高知を舞台にした作品、つまり「寒椿」と「櫂」の二作品のどちらかが選ばれるものと誰もが当然と思っていました
しかし、「櫂」は本作の次の1985年の作品となり、「寒椿」は五社監督ではなく降旗監督で1992年に映画化されることになるのです

そして五社監督の1984年の作品に選ばれたのは本作「北の蛍」だったのです

本作のスタッフのリストをみると、まずスーパーバイザー:阿久悠とあるのが目を引きます
スーパーバイザーとは何ぞ?
他の映画では聞いたことがありません

スーパーバイザーという役職は、企業とか職場によって現場統括責任者とか地区責任者とか様々で一体なにをするのかよく分からない職位です

阿久悠はご存知の通り昭和の名作詞家
1970年代から80年代は飛ぶ鳥を落とす勢いで、作詞した曲はほとんど全てが大ヒットするぐらいでした
つまり大衆の感情を揺さぶる言葉を操ることにかけて天才的な才能を持つ人物であると言うことです

どうやらほんのアイデア程度の映画の原案を、
大衆が感動する言語でリファインして、その内容で脚本を起こせる程度にまで具体化するという役割のようです
つまり原案のスーパーバイジングを行う役割です
それなら彼の類い稀な才能が、歌謡曲の大ヒットを連発したように、大ヒットするような映画の原案を練り上げることが期待できそうです

こうして「北の蛍」という題名と、物語のイメージが彼によって作り上げられ、最終的には主題歌という成果物となったわけです
映画はその主題歌と同時平行で製作されるという寸法です

なかなか良く考えられた仕組みだと思います
巨額の予算を投下して撮る大作映画を絶対にヒットさせるための仕掛けです

物語は北海道開拓初期の監獄、樺戸集治監を舞台にアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の1949年の「情婦マノン」を思わせるお話と、異常な熱意で囚人を開拓に酷使する典獄(刑務所所長)のお話が絡みあうもの
それを北海道の猛烈な吹雪と雪原を舞台に映像化されています

映像は、ものすごいシーンが沢山撮れています
セットも凄い規模
岩下志麻、早乙女愛、仲代達矢、みな良い演技を見せています

しかし2時間の映画は、中盤に流れる主題歌のシーンの5分だけでもう十分に感じてしまうのです
それだけで言いたいことは伝わってしまってます
結局のところ、本作は森進一の歌う「北の蛍」の超豪華なPVに過ぎなかったように思われてしまうのです
あとはもうすべてフリルに思えてしまうのです

スーパーバイザー
難しいものです
映画はやはり監督が全てを仕切らないと駄目なのだと思います

結局、五社英雄監督の次回作は、宮尾登美子原作にもどり、「櫂」が選ばれたのです

あき240