河内カルメンのレビュー・感想・評価
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好いた男にゃとことん弱く、ポンと投げ出す玉の肌!
「好いた男にゃとことん弱く、ポンと投げ出す玉の肌!」というAmazonプライムの簡潔明快にして叙述トリック的なリード文が素晴らしい一作。
したたかな田舎娘が淡々と数多の男の間を渡り歩くという初期ゴダールのような映画だった。思えば野川由美子の瞳のデカさはなんとなくアンナ・カリーナに通ずるものがある。
野川由美子演じる美しい村娘露子は別に尻軽というわけではなくむしろ純情ですらあるのだが、彼女の周りで次々と巻き起こる出来事が彼女を常に突き動かし続ける。それを一般的には「非業な運命」とかいうんだろうけど、そんな感じが一切しないのは露子があまりにもあっけらかんとしているからだろう。
男を振っても男に死なれても次の日にはケロッとしている露子。彼女には現在しかない。カットが切り替わるたびに彼女は生まれ変わっている。そういう意味において非常に映画的なヒロインだった。
露子の恬淡さは単に映画的快楽をもたらすだけではない。男に振り回されながらも同じ勢いで男を振り回す豪放磊落とした生き様は、あるいは「私セックスは嫌い」と男に向かって言い放つラディカルさは、まだまだ貞淑さが美徳であった昭和後期の日本映画においては非常に先進的だったといえる。
「何もしなくていいよ」と言われたらマジで何もしない、酔っ払ってグラスを割っても振り返りさえしない、かといってただのお転婆娘とは異なり仁義を通す。幼馴染に小切手を残してツーショットの写真を破り捨てるショットが非常に清々しかった。
前向きな明るさと生命力に満ちた野川由美子がその美貌を生かして、転身・変身していく様が魅力的
鈴木清順監督による1966年製作(89分)の白黒日本映画。配給:日活、劇場公開日:1966年2月5日。
主演の野川由美子と言えば自分的には必殺仕置人のイメージだが、こんな魅力的な女優さんであったことを、初めて知った気がした。
河内の田舎のおぼこい生娘が、パブの女給兼踊り子、ファッションモデル、金持ちの妾と、男たちに振り回されながらも、その美貌を生かして転身・変身していく様がお見事。何より、前向きな明るさと生命力に満ちたキャラクター設定が魅力的で、野川由美子が見事にそれを体現していた。清順監督のコミカルな演出も、良く合っていた。
あと、パブでの酔っ払いの贔屓客、野川にいれあげて勤め先の信用銀行のお金を使い込み、クビになったあげく彼女と一緒に暮らすことになる佐野浅夫が、小市民中年おじさんの、自分も身につまされる悲哀というか、何とも憎めない良い味を出していた。野川が2人が暮らした部屋を出ていく際、辛さを打ち消すため彼女に頼まれての怒った挙げ句追い出す演技が、何とも秀逸であった。
レズの相手として狙ってくるモデル時代の雇い主楠侑子、そこから野川を救ってくれる楠のセックスフレンド川地民夫。彼女を囲う金貸し業のの嵯峨善兵は、抱くこともなく歩かせてその脚を鑑賞し、コスプレによるブルーフィルムを撮ることに夢中。これら何とも奇妙な都会的な人物群も、60年代後半の日活映画らしくて、なかなかに良い。
監督鈴木清順、脚色三木克巳、原作今東光、企画坂上静翁、撮影峰重義、美術木村威夫、音楽小杉太一郎、録音片桐登司美、照明河野愛三、編集鈴木晄、スチル荻野昇。
出演
武田露子野川由美子、武田仙子伊藤るり子、武田きく宮城千賀子、武田勇吉日野道夫
坂由彰和田浩治、勘造佐野浅夫、高野誠二川地民夫、不動院の良厳坊桑山正一、斎藤長兵衛嵯峨善兵、雪江松尾嘉代、稲代和田悦子、和子加藤洋美、鹿島洋子楠侑子、「ダダ」のマネージャー柳瀬志郎、女秘書横田陽子、課長島村謙次、アパートの隣の女深町真喜子、女給A若葉めぐみ、女給B森みどり、女給C西原泰江。
キャラ設定が良い
こういった 類のストーリーはよく主人公の女をだんだんエロくなってく女として描きがち。色にはまっていくとか・・しかしこの主人公はそうではなかった 。「私 セックスはあまり好きじゃないねん」彼女が 男を渡ってく様がセックス抜きのように語られている。ほとんどセックスを描いてる映画なのであるが、セックス場面をもちいられず、心の絡み合いがメインに語られていくところが この映画の面白さだと思った。 それが短い時間に実に上手に詰め込まれていると思った。主人公は女性でありながら男性たちの群像劇にもなっていて。それでいて主人公が単なる 狂言回しにはなっておらずドラマがしっかり描き切られていた。鈴木清順
のアイデンティティ とも言える舞台のような演出法 もうまく決まっている
た
映画を見ていてよく思うのだが、映画って 結局 写真だ。 静止画の写真だとせいぜい1分ぐらいしか見ていられない。でも映画になると 90分でも 120分 でもその写ってる 俳優たちの魅力を感じていられる。この映画もまた女優を写した写真として優れていた。さらに私にとって幸運だったのは、この女優を見た記憶がない点だ。 テレビドラマとかほとんど見ないので 。初めて見た この女優にとても大きな 魅力を感じた。
勇ましく奔放な女
河内で襲われて、好きでもないシツコイ男がヒモになり愛着が湧いての別れ際、レズの社長に金持ちオヤジ、初恋相手は自暴自棄な為体、妹にまで手を出すオッサンと嫌な男性像の割に主人公同様に嫌いになれないキャラクター陣、川地民夫のホンワカした天然風味な男は最後まで爽やかに。
本作で描写されない悲惨で酷い目にどれだけあってきたのか、構うことなく己を突き進む逞しい女性像を野川由美子が気の強さとキュートな魅力で演じ切る。
これ東京編としての続編が観たい気分にさせられる、野川由美子の存在感は木村威夫の清順美学すら超えてしまう可愛さに魅了されてしまう。
タフで、多少のことにはへこたれず、根あかに前向きに生きていく河内の女 それは現代の女性に求められていることではないでしょうか?
「カルメン故郷に帰る」は、木下惠介監督の1951年の作品で、日本最初のカラー作品として有名ですが、こちらはタイトルが似ていても全く別物
鈴木清順監督の1966年の白黒作品
河内というのは地名こと
今の大阪府の東半分の旧国名
大阪や堺の市街地が途切れたところから東側
北は淀川、南は大和川まで
東は生駒山、信貴山、二上山の山並みの奈良県との境目までの範囲のこと
大阪と、京都や奈良との間にある郊外の田園地帯です
戦後は宅地化が進みベッドタウンになっています
首都圏でイメージが近いのは葛飾区や江戸川区でしょうか
劇中、布施という地名がでますが、環状線からたった2駅の繁華街で、距離感からいうと錦糸町くらいの近さです
ですから劇中の会話では大阪と河内は遠いように感じると思いますが実は隣接地です
露子が通うボンの紡績工場は奈良県側の生駒駅に有ります
自転車で山道を登っているシーンがあるので、毎日峠を越えて通っていたようです
なので彼女の家は石切駅のさらに生駒山よりの辺りだと思われます
その峠は今では阪奈道路という高速道路が走っています
彼女が車で家に戻るシーンの高速道路はそれでしょう
河内弁は汚い方言で全国的に有名です
淀川は、江戸時代は人や物品を船による水運の一大幹線でした
大阪京都の中間点は、幹線道路のドライブインのような施設が求められるのですが、そこで小舟が淀川を往来する大船に漕ぎ寄り、弁当などを販売していたのですが、その名前が通称「喰らわんか船」
その売り込みの言葉があまりに口汚いことからついた名前です
河内は昔から気性が荒く、言葉も汚い土地柄ということです
大阪と京都奈良との間にあって人の往来が激しく、それだけに人との接触機会が多く田園地帯であっても人慣れしている土地なのです
それが大阪以上の人慣れというより、人を人とも思わなない気性の土地柄になった理由だと思います
今も大阪のお笑い芸人に河内の出身者が多いのはこのような背景があるのです
カルメンはラストシーンの手紙で東京に行ったとありました
今の大阪のお笑い芸人が売れたら東京に進出していくのに似ています
源流はここにあるのかもしれません
鈴木清順監督らしい作品です
「けんかえれじい」よりも「殺しの烙印」よりも
濃厚にらしさが感じられる作品です
野川由美子は北川景子にも似てクールで現代的な美しさで見とれてしまいました
河内カルメンの気性
それは戦後、女性が自由に生きていける世の中を先取りしていたということにも繋がっているのだと思います
タフで、多少のことにはへこたれず、根あかに前向きに生きていく河内の女
それは現代の女性にこそ求められていることではないでしょうか?
それを半世紀以上前に娯楽映画にしているのです
21世紀の女性を取り巻く状況は、彼女とさしてかわりません
そのままリメイクできるはずです
こうした問題に今の日本映画は取り組めていると言えるでしょうか?
この時代の映画の方が遥かに先進的であったのです
生駒の温泉は、今の石切温泉ホテルセイリュウのことであると思われます
本当に出たのです
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