劇場公開日 1960年3月23日

「そこまで酷くはない」からっ風野郎 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0そこまで酷くはない

2023年1月26日
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三島の演技が酷いことで有名らしいので怖いもの見たさで見てみたが、三島が酷いというよりは周囲のプロ俳優たちのレベルが高すぎるという印象だった。かといって三島の演技を完全擁護するわけにはいかないんだけど、それは単に「演じること」に慣れていないからで、演じる役柄の人格についてはほとんど完璧に掴んでいたように思う。

たとえば出所日にパトカーの中で威勢を張る三島に「顔が青いぞ」と警官が言う。そのときの彼の恐怖と虚勢が相混じったなんともいえない表情はなかなか見事なものだ。脚本家が三島由紀夫の人格から逆算してああいうキャラクターを創り上げただけかもしれないが。

話しとしてはよくあるヤクザ映画という感じで、やはりヤクザは軽率に赤ちゃん用品コーナーに立ち寄るべきではないなと改めて思った。ラストシーンでは、絶命寸前の三島の進行方向とエスカレーターの進行方向が逆であるがゆえに、シリアスともコメディともつかない異常空間が醸出される。ヤクザとカタギの間を曖昧に揺れ動き続けた三島に相応しい最後であるといえる。

因果