「シン・ガメラ日本に現わる。 やはりガメラは人類の味方っ!…なの?」ガメラ 大怪獣空中決戦 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
シン・ガメラ日本に現わる。 やはりガメラは人類の味方っ!…なの?
人類を守護する巨大生物「ガメラ」の戦いを描く怪獣映画『ガメラ』シリーズを、設定も新たに描き直した平成『ガメラ』3部作の第1作。
水深3,000mの太平洋上で、プルトニウムの輸送船が座礁するという事件が発生。幸いにもプルトニウムの流出は回避されたが、この不可解な出来事の原因を解明する為、当時輸送船の護衛を務めていた海上保安官の米森は、民間海上保険会社の草薙らと共に調査へと乗り出す。
同じ頃、五島列島にある「姫神島」で、野鳥の調査を行っていた九州大学の平田教授が失踪してしまう。平田の教え子だった長峰は、長崎県警の大迫に連れられて島へと赴くのだが、そこには通常では考えられない程巨大なペリットが吐き捨てられていた…。
ガメラ誕生30年記念作品。シリーズ8作目『宇宙怪獣ガメラ』(1980)から15年の時を経て制作された、今なお燦然と輝く日本特撮映画のマスターピースである。
脚本を『パトレイバー』シリーズ(1988-)の伊藤和典が手掛けているだけあり、「巨大怪獣が現実社会に出現したらどうなってしまうのか」という問いをリアルに追求したシミュレーションの様な作品になっている。
官僚や自衛隊、学術チーム、マスコミ、民間人、さらには日経平均株価まで、あらゆる側面からその動向を描く事により、観客を虚実の皮膜へと誘う。偶然にも本作公開の2ヶ月前に阪神淡路大震災が、10日後に地下鉄サリン事件が発生しており、この奇妙な歴史のシンクロニシティは突如として出現し全てを薙ぎ倒す「怪獣」は決して絵空事でなく、実は極身近に存在しているのだという事を我々に突きつけた。正に時代を象徴する一作であると言えるだろう。
怪獣映画には必須な社会問題への言及にも抜かりはない。地球温暖化により古代の怪獣が目覚めてしまうというところから始まり、未来人にとってはプルトニウムも古代人からの負の遺産であるという点ではギャオスと遜色はないという批判も強烈。「姫神島」の描写や“平田"という名の人物など、初代『ゴジラ』(1954)を思わせる点が多い本作だが、その風刺性もしっかりと受け継いでいる。
特筆すべきは特殊撮影のクオリティ。虚実皮膜の真髄とも言えるこの恐るべき特撮は、特技監督・樋口真嗣の名を世に知らしめた。
ハリウッドでは『ジュラシック・パーク』(1993)が既に存在していたとはいえ、日本映画界にはまだ怪獣映画をフルCGで制作出来る程の技術も予算もなかった為、本作ではミニチュアやセット、そして着ぐるみといった昔ながらのアナログな方法が特撮パートに採用されている。今時の映画と比べると流石にチープだが、例えばガメラの福岡上陸や、折れた東京タワーに巣を作るギャオスなど、実物を用いているからこその臨場感は何ものにも代え難い。
CG全盛となった今、この様な手段で大規模な怪獣映画が作られる事はもう無いだろうし、もしかしたら既に技術も失われてしまったのかも知れない。かつての怪獣特撮を今に残しているという点でも、本作はとても貴重な作品である様に思う。
樋口真嗣は後に『シン・ゴジラ』(2016)の監督を務めるのだが、本作のリアルな作風がそれに大きな影響を与えたことは間違いない。両作品ともクリーチャーデザインに前田真宏が関わっている為、怪獣の見た目も近い。『シン・ゴジラ』は記録的な大ヒットを記録したが、その基礎に本作があった事を忘れる訳にはいかない。
怪獣シミュレーションとしての面白さには諸手を挙げられるが、正直なところ『ガメラ』シリーズお馴染みの「子供との絆」の部分がリアルな作風と噛み合っておらず、後半に行くに従ってどんどんチグハグになってゆく。
しかも、当時14歳だったスティーヴン・セガールの娘、藤谷文子がガメラと心を通わせる少女を熱演しているが、これがまぁ下手💦ヒロインを演じた中山忍もなかなかのものだが、とにかく藤谷の演技が酷すぎる為、彼女の出演シーンは全く頭に入ってこない。いくら子役とはいえこれはちょっとあんまり過ぎるぞ😡コネ採用もいい加減にしろっ!!
元々「子供との絆」部分は邪魔なのに、藤谷の演技の酷さのせいでよりそこが悪目立ちしてしまっている。せっかくリブートしたのだから「つっよいぞガーメーラー」的な子供向けな作風から完全に離脱してしまえばよかったのに。
演技の酷さを別にしても、クライマックスの怪獣プロレスはちょっと頂けない。リアルな路線から一気に60〜70年代のガラクタ路線にチェンジしてしまった感じがして、その落差にガクッとしてしまう。
怪獣映画なのに怪獣同士のバトルが1番つまらないというのは本末転倒な気もするのだが、そこは前半の出来があまりに良すぎたから仕方ないか…。
また、シナリオ部分にも疑問が。ガメラは人類の味方だ!的な感じで終わりますが、ガメラのせいで福岡ではめっちゃ死者が出ていたはず。多分、本作ではギャオスに殺された人よりもガメラに殺された人の方が多い。そこを無視して「ガメラがんばえー!」とはならないですよねぇ…。
この点に関しては後のシリーズ作品で言及が為されますが、少なくともこの第1作だけで判断すると、脚本的に問題があるとしか思えない。「怪獣が上陸したら、それだけでこのくらい人は死にます」というリアルさを追求したのだろうが、それなら後半の「人類の味方」的な描き方は不要だし…。このリアルなシミュレーションと子供向けなファンタジーが同居しているところに、リブート第1作目ならではの躊躇と混乱が見て取れる。
怪獣=子供向けという考えがまだ根強かった90年代に、この映画は早すぎたのかも知れない。しかし、本作が種を蒔いたからこそ『シン・ゴジラ』や『ゴジラ-1.0』(2023)の成功があったのだ!
…って『ゴジラ』ばっかりやないかい。『ガメラ』は今年60周年なのに…。新作にはまだ時間かかりそうですかねぇ…?
> 阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件
そうか、その頃だったんですね。思い出させてくれてありがとうございます‼️
> 樋口特撮監督
最高ですよね。特撮監督として大好きです‼️
> スティーブンセガールの娘
知らなかった!? 藤谷さん中山さん共演の破壊力には同感‼️


