劇場公開日 2020年11月27日

「従来のミニチュアワークと光学合成の特撮から、CG とデジタル合成の特撮への変革を、この平成ガメラ3部作が推進したからこそ今日の日本の特撮界はあるのです」ガメラ 大怪獣空中決戦 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0従来のミニチュアワークと光学合成の特撮から、CG とデジタル合成の特撮への変革を、この平成ガメラ3部作が推進したからこそ今日の日本の特撮界はあるのです

2022年6月26日
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鑑賞方法:DVD/BD

平成ガメラシリーズ3部作の第1作

日本の特撮映画、怪獣映画の最高峰の作品での一つです
1954年の最初の「ゴジラ」に次ぐものでしょう
あとは比肩できるものは「シン・ゴジラ」ぐらいです

平成ガメラシリーズも「シン・ゴジラ」も「シン・ウルトラマン」も特撮は樋口真嗣監督です

この本作もいわばシン・ガメラともいえるものでそれは共通している事です

シン・ウルトラマンも、シン・ゴジラも原点は本作にあると言えると思います

1995年3月11日公開
本作は、撮影している最中からラッシュをみた撮影所のスタッフからこれは凄い映画ができそうだと評判になり、公開されるやオタクの特撮ファンだけにとどまらず、怪獣映画なんてといつもは小馬鹿にしているようなうるさがたの映画評論家の先生方まで絶賛の嵐を巻き起こしました
なにしろ1995年度キネマ旬報年間ベストテンに入っているほどなんです
もちろん大ヒットしました

3部作という構想は当初は無かったといいます
しかし本作がこれほどの素晴らしい完成度を示して成功すれば 、自然と続編と言う話になります

そして2作目も高いクオリティを示し大ヒットになります
それなら、普通3部作だろうという風になって言ったそうです

つまりそれほどに作品自体に勢いがあり、スタッフにも勢いがあり、観客もまそれを多いに支持した作品シリーズだと言うことです

平成ゴジラシリーズは、本作公開のの9ヵ月後の1995年の12月に最終作が公開されて終了しました
ハリウッド版ゴジラが製作される為でしたが、実際のところコンテンツ疲労というべきものだったと思います
いや特撮技術の敗北だったのです

1993年の「ジュラシックパーク」のCG による恐竜の映像は日本の特撮を完膚なきまでに打ちのめしたといえます
「スターウォーズ」や「未知との遭遇」が黒船なら、「ジュラシックパーク」は太平洋戦争に敗れたようなものです
逆立ちしても勝てない
それがハッキリしたのです

ジュラシックパークを観たなら、もうチープな着ぐるみの怪獣映画なんか馬鹿馬鹿しい
内容もマンネリ化して変わり映えしない
大人向けなんだか子供向けなんだかわからない
誰も満足しない映画を惰性で撮り続けていたのです
コンテンツ疲労そのものです

それなら映画化ライセンスを売り渡した方が、ゴジラというブランドを永続させるための戦略として当然の事です

しかし、CG とデジタル合成の特撮技術の発展は始まったばかりだったのです
ここで日本の特撮界が諦めていたなら今日の日本の特撮はなかったのです
本作がそれを救ったのです

従来のミニチュアワークと光学合成の特撮から、CG とデジタル合成の特撮への変革を、この平成ガメラ3部作が推進したからこそ今日の日本の特撮界はあるのです

第1作の本作は、何もないところからどうすれば良いものを作れるのか
第2作では、一部CG とデジタル合成を取り入れ、第3作では日本の特撮もCG とデジタル合成で特撮をやれるようにしたのです

それこそが平成ガメラシリーズの最大の功績であり、意義であり価値であると思います

中山忍のヒロインの美しさ、東京の都市破壊シーンの説得力、破壊シーンされた東京タワーに巣をつくり夕焼けのなか佇むギャオスのシーンの絵
どれもこれも語り草ですが、何よりも本作が日本の特撮界に与えたインパクトの巨大さをまず語るべきだと思います

キネマ旬報年間ベスト10になったのはそこまでいれての評価なのだと思います

この平成ガメラシリーズにかかわった95人ものスタッフのインタビューが、2009年に発売されたブルーレイに特典映像として収録されています

彼らが平成ガメラシリーズを経験したことが今日の日本の特撮の土台になっていることがハッキリと分かると思います
ぜひこちらを全員分ご覧になるべきです
もちろん本編の金子監督、特撮の樋口真嗣監督のインタビューも収録されています

最後にかなり長文ですが、この樋口真嗣特撮監督の証言を引用させて頂き多ますます

特撮ファンなら大変に重要な証言だと分かると思います

まだCG やデジタル合成が主流になる遥かに前の時代の事です
ガメラを作る直前、私は自分たちの作れる特撮の可能性について考えてばかりいました
どうして日本の特撮はリアルな説得力が無くてちゃちなんだろうか?
アメリカからやってくる特撮のような画はなぜ作れないんだろうか?
10年近く特撮の現場に参加しているうちに、「スター・ウォーズ」や「未知との遭遇」と同じクォリティのものは到底作れない事も判ってきたのです
ミニチュアワークに依存せずに、合成を中心とした画作りがリアルな説得力に繋がるのは判っていたけれども、それを実現するための予算を獲得する事はまず無理でした
ところが、「ターミネーター」彗星の如く現れた監督が作り出した「エイリアン」の続編を見て、「モンティ・パイソン」のメンバーが監督したファンタジー映画を見て、驚きました
撮影規模から類推するに決して潤沢な予算が投入されているとは思えないのに、ミニチュアワークのみで臨場感と説得力を獲得しているのです
おこがましい表現ですが、「フレンドリーな特撮」
ーつまりこの程度のなら自分たちが与えられるであろう予算規模でも成立するのではないか?
技術ではなく画面構成や色調表現、ライティングでカットのリアリティは飛躍的に上がるのではないか?
あとはどうやってその試案を検証するか?
そんな事を悶々と考えていました
そんなに時に舞い込んだのが森田芳光監督の「未来の思い出」1992年の映画の特撮でした
主人公の恋人を乗せた旅客機が嵐に突っ込み、あわや墜落、でも危機一髪脱出する、というシチュエーションを、綿で作った雲海とピアノ線で吊ったミニチュアで撮影しました
雲のフォルムを自然に再現し、丁寧にライティングするやり方はジェームズ・キャメロンやテリー・ギリアムの映画で学んだ方法です
しかし、その旧態依然とした方法に依頼した本編スタッフの全員が懐疑的だったので、テストフィルムを撮影して観てもらったのです
それから彼らのミニチュアに対する、特撮に対する不信感は払拭され、私たちはそのやり方に対して自信を深めました
それが始まりだったののかもしれませんが、特撮を試せるチャンスはなかなか訪れません
アメリカで製作する「ウルトラマン」の現場に立ち会い、アメリカとはいえ予算が無ければ日本よりも条件が悪くなる事を身を持って味わい、帰国した時点で「ガメラ」の企画を脚本の伊東和典さんから聞きます
それまでの閉塞感を打開する最後の機会だったので、今まで同じ意識を抱いていたスタッフを集め、生まれて初めて制作会社、大映に売り込んだのです
「我々に、特撮をやらせて下さい」
あれほどまで積極的にアプローチしたのは、あとにも先にもあの時だけです
現状に対する不満と大胆な行動力のなせる業だったなと思います
面映ゆいですが、あれこそ「若さ」だったのでしょう
あの時期でないとできない仕事だったし、あの時期に出会えて良かったと思います
いまでもひたすら感謝です

あき240
CBさんのコメント
2022年7月14日

> 1995年度キネマ旬報年間ベストテンに入っているほど
ですよね。怪獣映画史上初、ですものね。すごい。

> ジュラシックパークを観たなら、もうチープな着ぐるみの怪獣映画なんか
> 諦めていたなら今日の日本の特撮はなかった
> 本作がそれを救った
全く同感です。平成ガメラシリーズは、特撮(もうVFXって呼ぶべきですかね)の面、かつ防衛庁の全面協力を得たこと、この2つの面で、自分の中で日本の怪獣映画のターニングポイントの一つとして、輝きを放っています。
(自衛隊が怪獣と戦闘し、局地戦で敵わず指揮官が「撤退!」と叫ぶシーンに自分はうちふるえました。ちゃんと撤退する。この一つのシーンだけで、どれだけ「たかが怪獣映画」がリアルになったことか。「たかが怪獣映画」を愛する身だからこその感動でした)

> 樋口真嗣特撮監督の証言を引用
すごい。読んでいて泣ける。(実際、カレー屋でカレー食いながらな、スマホ見て泣いている変なお爺さんになってしまいました)
やはりここに日本の特撮の新たな夜明けがあったんですね。感動。
円谷監督、見えますか、聞こえますか? あなたの足跡は、立派に引き継がれていますよ…

素晴らしいレビューをありがとうございました。ナイスレビュー!!

CB