「つかのディフォルメ感満載の世界を、深作監督が更にパワーアップして…」蒲田行進曲 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
つかのディフォルメ感満載の世界を、深作監督が更にパワーアップして…
「蒲田行進曲」については、
映画と舞台鑑賞に加え、
その戯曲や小説版も読んだが、
この物語、本来は小夏とヤスの物語。
しかし、紀伊國屋ホールでの
風間杜夫が大人気で、
「銀ちゃんのこと」と改題の上、
風間杜夫銀ちゃん中心に
再上演されたように記憶している。
運転手付で乗る車との意味で、
「キャデラックに免許がいるか!」
(舞台ではベンツだったと記憶しているが、
映画ではビジュアル的にキャデラックに
代えたのかも知れない)や、
「餅をつくたような性格」とか
「センスがセンスすぎて、
他のセンスと釣り合わねえんじゃないか」
等のつか節が満載だった一方、
映画としてのオリジナル性が
遺憾なく発揮された
千葉・真田・志穂美が加わった
ヤスの危険な役のシーンは抱腹絶倒だった。
また、舞台での寺田屋の階段は
セットを組むのではなく、
単にシマシマ状に照射したライトの中で
ヤスが転がっていただけの記憶だが、
これもデフォルメの効かせ過ぎたかのような
この映画での長大な階段には
大変驚かされるばかり。
つか作品での登場人物は、切なく、また、
行き過ぎた人情感の持ち主ではあるものの、
ある意味、真剣で大真面目に生きる人間像が
印象的だ。
この映画でも、舞台モードを
そのまま持ち込んだかのような、
あるいは舞台以上にディフォルメ感満載で、
銀ちゃんの性格設定も更に傍若無人で、
ヤスの自虐性にも関わらず、
そこに漂う哀愁に何故か何の違和感もなく
大笑いの中でつかの世界に引き込まれた。
そして、
その銀ちゃんに翻弄されながらも、
“銀ちゃんのこと”ではなく、
ちゃんと“小夏とヤスの物語”になっている
二人の揺れる想いに涙腺が緩みっぱなしに。
小夏とヤスの結婚式の場面と
大人数の保険の受取人の設定には
若干抵抗感があったものの、
映画賛歌へ昇華させたラストシーンも含め、
全編に渡って、深作監督の演出と
つか自身による脚本とが
見事に融合している作品のように感じる。
一般の舞台劇と比較しても
特にデフォルメ満載のつかの世界を、
更にパワーアップして映像の世界に
持ち込んでも違和感なく演出出来る
深作監督の技量!
この作品は「仁義なき戦い」と並ぶ
彼の代表作ではないだろうか。