悲しみは女だけにのレビュー・感想・評価
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豪華キャストで織りなす家族の葛藤
もともと戯曲として書かれたものを映画化したようである。そのためか、劇場で見ているような気になる。ほとんど主人公の家の中で撮影され、それ以外といえば、家の前の街並みや港ぐらい。
屋内でのカメラの角度、照明の当て方もとても効果的、劇場的。
物語といえば、京マチ子、田中絹代、望月優子、船越英二、杉村春子、乙羽信子、小沢栄太郎、水戸光子、宇野重吉、市川和子などそうそうたる俳優陣が織りなす、ある意味えげつないやりとり。
30年ぶりにアメリカから帰ってきた姉が知らされていない、家族それぞれの人生と苦悩が次々と明るみに出て、どうなることやらと思うが、少しも飽きることなく話が展開していく。
写真だけのお見合い花嫁として渡り、日系アメリカ人として強制収容所に入れられていたり、二世部隊の活躍、広島の原爆投下、被爆者の苦悩、米軍黒人兵との子どもなどなど、当時の混沌とした現実がさらりと語られるが、当の本人たちはあまり真正直には聞いておらず、自分の事都合ばかり主張する。
実際、新藤監督の姉はアメリカに嫁いでいたようで、この物語は新藤監督の兄や姉をモデルに書かれたと聞く。
途中に挿入される音楽がマンボ・ラテンで、重要なシーンでもドンと流れてくる。そのタイミングが意外なところもあり、ちょっとホット息を付けれたりする。
天使のような田中絹代
照明が凝っていて目を見張った。夕立の場面は、完全に舞台のセットと舞台の照明だった。美しい屋根に激しい雨音。かなりの遠景で、陰翳の中の家屋に女性二人。上手は立っている京マチ子、下手は座っている田中絹代。夕立があがったら照明が変わり、軒からぽたぽたと雨のしずく。二人のたたずまいと居ずまいも変わる。光と陰が作り上げる映像がこの上なく美しかった。
久し振りに故郷に戻ってきた秀代=田中絹代のいでたちが、あまりにステレオタイプなアメリカ帰りの満艦飾で唖然とした。でも、だんだんと分かってくる。これは精一杯の「故郷に錦」。写真だけのお見合いで渡米し、日系1世として朝から晩までお百姓として働きづくめ、戦争中は収容所、英語はほとんどできず、向こうでは乞食みたいな格好をしてると彼女は問わず語りに話す。秀代の親やきょうだい、故郷への純粋で懐かしい想い、広島の原爆投下、その後も沢山の人が亡くなっていることもちゃんと分かっている。この滞在が自分にとって最後であることも。
そんなこともつゆ知らず、お金の無心をする甥と姪。秀代は驚きながらも優しく断る。ても、弟の苦しみ、ブラジルへ夫と共に渡る姪(京マチ子)の悲しみを秀代は理解する、なけなしのお金を渡して。秀代は、想像を絶する苦労をしたに違いないから。
田中絹代、秀代の夢に出てくる母の乙羽信子(美しい)、弟の元・妻の杉村春子、そして京マチ子。この4名の女優の存在で映画がキリリと締まった。悲しかったけれど、いい映画だった、とても。
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