「ある日息子と二人で語りあったさ」哀しい気分でジョーク 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ある日息子と二人で語りあったさ
ビートたけしの映画初主演作。1985年の作品。
後に監督としてヤクザ物やバイオレンス物、シリアス物でも独特の“キタノ・ワールド”を創り出す事になるが、初主演映画は意外にもドストレートな感動作。
演じるのは、地で行くような超人気タレントの洋。
TVやロケに出れば黄色い歓声が飛ぶ。夜は恋人や業界人と飲み歩き。
そんなやりたい放題が祟って、妻には愛想尽かされ…。まだ10歳の息子・健と二人暮らしだが、その面倒は気のいいマネージャーの善平に任せっきり。
人気タレントではあるが、父親としては典型的な失格者。
でも、酒を飲んで帰って来て、暴力を振るったりするようなDV父親では決してない。息子への接し方が分からない不器用父親。
対する息子はしっかり者。学校行く前に父親の朝ご飯の用意もする。
よく女房に頭が上がらないと言うが、この父親の場合、息子に頭が上がらない感じ。
そんなある日…
健がしょっちゅうめまいを起こす。
心配になって検査してみると…
脳幹部腫瘍。
手術は困難。余命僅かの診断…。
洋は仕事を抑え、極力息子と過ごそうとする。いつ訪れるか分からない別れの日まで…。
お涙頂戴の難病物と言うより、あくまで父と息子の交流を切なく、温かく、感動的に描いてる点に好感。
これまでほとんど構ってやってなかったのに、急に朝ご飯を作ってやるなど小さな事からコツコツと。
でも逆にヘンに思われる。ちなみに病気の事は健には話してはいない。
あまりにも最近気を使い過ぎるので、パパ遊んで来なよ、と言われる始末。
父ちゃんはつらいよ…。
前述したが、ビートたけしがこの手の少々ベタな感動作に出るのは意外。
でもこれはひょっとして、ビートたけし自身なのかもしれない。
超人気タレントとして華やかな舞台に立つその裏で、家庭での顔はいざ知らず…。そういや近年、離婚問題あった。
役柄より哀愁漂う佇まいの方こそ、地かも。
後に『菊次郎の夏』を監督。そう考えると、感動作は意外でもなかった。
健役の子役が自然体で巧い。
恋人役の大谷直子、マネージャー役の柳沢慎吾、事務所社長役の石倉三郎らも好演。
健が指揮を取る子供コーラス。歌は『グリーングリーン』。
父と息子の歌詞が胸に突き刺さる洋。
健は度々めまいを起こしている。病状は確実に進行している。
仕事を抑えている為、貯金が底を尽き始めている。久々に入った大きな仕事で大失態…。さらには週刊誌に騙され…。崖っぷち。
社長の提案。“悲劇の父親”になれ。
激怒する洋。息子を食い物に出来るか! この時の洋は、父親としても男としてもカッコ良かった。
健は常々、現在オーストラリアのシドニーに居る母親に会いたそうにしている。
手遅れにならぬ前に、今自分の貯金を叩いて、いざシドニーへ。
母親の勤務先から住んでる所を聞き、赴くが…。
異国の地で、父一人、息子一人に…。
ならば、遊ぼう!
ここはまるで、オーストラリア観光&紹介ロケみたい。
父子水入らずも終わりの頃、健は自分の病気の事を聞いてしまったと打ち明ける。
父と息子は抱き合い、もう不器用な父子じゃない。
帰りの飛行機の中で…
洋の悲しみの言葉のままに、それは突然起きた。
「こんな事ってあるかよ!」
洋の姿は再び業界に。
華やかな舞台に立つ。
例え悲劇があってもパパは皆を笑わせなくちゃならない。
哀しい気分でジョークを。