女が階段を上る時のレビュー・感想・評価
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夜の社交場をクールにみせる。音響効果が素晴らしい。
故相米慎二が日本映画のオールタイムベスト3のうち一本として挙げた作品である。成瀬巳喜男の作品であれば「浮雲」か「めし」あたりを挙げるかと思いきや「浮雲」と同じく高峰秀子と森雅之が主役を演じた本作を持ってきた。稀代の見巧者だった相米慎二の鑑賞眼の確かさには呻らざるを得ない。
勘定貸しによる高価な遊興費設定、資本と経営の分離、ママを頂点にした店内ヒエラルキーの設定、いずれも見事なまでに洗練された銀座のシステムを背景にして男女の騙し合いの姿をクールに描いた傑作である。脚本、演出、撮影すべてが秀逸であり、もちろん高峰秀子の演技、身のこなしの素晴らしさは言うまでもない。ただ私としてはこの映画の音響技術を特筆すべき要素として挙げておきたい。音楽は黛敏郎であり明らかにこの2年前に製作されたフランス映画「死刑台のエレベーター」の影響をみて取ることができる。ただこの作品で採用されているパースペクタ・ステレオシステムでは現在のフルステレオとは異なり同時に複数の音をステレオ音声にすることはできなかった。だからセリフは簡潔に、効果音は少なめに、そして劇伴はエモーショナルに、それぞれを組み合わせて各シーンの優先すべき音が選ばれて鮮やかに構成されている。このこと一つだけでも劇場で観る価値のある作品である。
タイトルを見ただけで広がる世界
巷に僅かに溢れたはした金。
どこがいいんだ?
階段を登る、それはステージを変える行為
傑作です
重い観応えが有りました
劇中で夕暮れ時の銀座が写ります
本作から60年経っていますが今と変わらない、仕事帰りのビジネスガールと着物姿のプロがすれ違う光景です
夜のお店は疑似恋愛を楽しむお店です
もっともそれを楽しめるのは重役以上で、若手社員は接待のお付きに過ぎません
こうしたお店で接待の交際費で場数を踏んで、男を磨く事が出来た男が重役になれる
そうしたものの筈でした
でも本作を観ると60年前からお偉いさんも、こんなていたらくだった訳です
男はいつの世も駄目です
男も女も両方がこれは疑似恋愛でゲームなんだとわかった上でゲームを楽しむ
節度をお互いに守ることでゲームは成立しているのです
言い方を変えれば、建て前を守りとおせる男であるのか、女であるのか試されているとも言えます
そのゲームのルールをわかった上で、女性に気遣いと真心を示すことができるか
女性はそれを知った上で男のプライドを理解できるのか
それが夜の街での修行なのだと思います
それが出来ない男はやはり仕事でも脱落していくものなのだとやはり思います
女も然りです
シングルマザーがホステスにいることを示すシーンがあります
今と何も変わりはしません
子供を抱えて昼の仕事ではお金がかかる年頃の子供を養えない現実はあるのです
雇われママの圭子もつらい思いを重ねて修行しています
最高につらい仕事です
だから高給なのだと思います
階段を登る、それはステージを変える行為
女が別の女に変わるところ
ラストシーンは主人公の圭子がまたひとつ階段を登ったのだということだと理解しました
彼女はきっと銀座で成功していくのでしょう
高峰秀子36歳、役の圭子は30歳の設定です
まだまだ十分に若く美しいのですが、役の年齢よりも実年齢が上のところがまた、女性の曲がり角である年齢を迎えているという説得力を増していると思います
黛敏郎による音楽が秀逸です
まるでフランス映画のような趣があり本作の雰囲気を高めています
深みのある素晴らしいタイトル
夜の銀座を取り巻く女のしたたかさと男のどうしようもなさを、マダムの乾いたナレーションとスタイリッシュな映画でドロドロとせずしみじみと味わえた。加東大介演じる見た目パッとしない優男ながらにして女たらしという難しい役どころ。家庭持ちの銀行マンと見送りのホームで対峙するシーンの緊張感たるや。
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