「きっと、ある意味R22くらいの作品」おもひでぽろぽろ 77さんの映画レビュー(感想・評価)
きっと、ある意味R22くらいの作品
参りました。
というのが今の率直な感想。
ジブリの中でも地味な方で、正直そんなに惹かれる題材でもなかった(後に後悔する)のに気付いたら見入って浸ってしまっていました。余韻が凄い。私も文系人間だからかなんとなくタエ子の気持ちがわかることが多かったのもその一因なのかもしれませんが。
温かくて、優しくて、愛おしい空気に包まれているような作品です。まさに隠れた名作。
初見のつもりで観はじめて、パイナップルのくだりだけ懐かしすぎてテンションが上がるくらいやけに覚えててw、ああこの作品だったんだ!って嬉しくなったんだけど、それ意外は全く覚えてませんでした。(というか今まで意識してなかったけど高畑作品をじっくり観たのがどうやら初めて。)
記憶に残ってない作品にこんなに惹かれるなんて不思議な感じ。なーんかいいんです。確かに確実に子供向けではないので子供の頃観たのが記憶にないのも妙に納得。
子供向けじゃないのにアニメーション。しかもモデルにしてる人を声優に使って声は先撮り。
この“あえて”の効果がホントに凄い!すごい化学反応を見ました。実写じゃここまで表現できなかった気さえする。
5年生パートのモヤがかかったような色調、それにピッタリ合う心地好い今井美樹さんの優しい声、他にもたくさんあるけど最後の“5年生”に手を引っ張られるような背中を押されるようなED(歌とクレジットだけじゃないED大好き!)なんかはその真骨頂。アニメーションだからこその深みある演出が本当に素晴らしい。
そして上であんまり惹かれない題材なんて言ってしまいましたが、とんでもない!前言撤回、目の付け所が素敵すぎです。こういうところにスポットライトを当てるってとってもいいですね。
店頭で手に取る野菜一つ口紅一つの裏にある苦労、田舎暮らし、“村人A役”をやるような女の子の人生、家族あるある学校あるある…どれもすごく感慨深かったです。
まずはよくあの小さくて面倒臭い社会に順応してたなと思うくらいの小学生という生き物wにノスタルジー(作品の時代には馴染みがないけど今も昔も変わらないw)を感じて、思春期一歩手前のあの頃をさなぎに例えて【さなぎにならなきゃ蝶々になれない】という言葉にすごく納得。
そして朝日が差し込むシーンが本当に神聖な田舎パート。とっても好きな【快く疲れる】という言葉。
そして逃げ出してしまったタエ子の心情。[無]農薬は消極的で[有]機栽培はかっこいいという素敵な考え方のトシオが急な“アベくん”の話を黙って聞く姿。ラストシーンのタエ子は凄く綺麗な“蝶々”でした。
トシオや山形のみなさんの切なくて力強くて美しい姿を見ていたら今の福島の農家さんのことを考えさせられました。
生まれてからその土地を離れずに365日ずっと農業に携わってきたこと、今まで大切に育ててみんな食べてもらえてたという生活が急に失われてしまった気持ちやこれから。
「まだ住んでるなんてどうかしてる」と言われたってそう簡単に慣れ親しんだ場所から離れられるものじゃない(なにより心情的に)。
国が生活を保障するのが一番なんだろうけどそれだけで割り切れる問題じゃないもんなあ。。
タイムリーなことに、もっと何ができるか考えなくちゃというきっかけを与えてくれた映画にもなりました。
私は気になるキーワードがあったら説明書みたいな文字を読むよりそれに関する映画を観ると一番理解できるような気がして更に関心が持てるタチなのですが、こういう偶然のメッセージにもすごく後押しされます。