「実質的に最終回になる第48作への伏線の回です」男はつらいよ 拝啓 車寅次郎様 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
実質的に最終回になる第48作への伏線の回です
寅さんはリリーさんを思いだし、満男がどれだけ泉ちゃんを放置してきていたのかを説明する回です
小林幸子41歳、売れないレコード歌手の役です
寅さんの「次は紅白だな」の台詞があります
この頃は毎年小林幸子VS美川憲一の超ド派手な豪華衣装対決が紅白の目玉になっていました
もちろん、次回作でのリリーさん登場の伏線だと思います
既に「寅次郎紅の花」の構想も進んでいたのだと感じます
円高というワードが寅さんの商売の口上に飛び出します
年初111円ぐらいだったのが、夏には98円にまでとんでもない勢いで急上昇した年でした
企業がどんどん海外進出していき、国内産業の空洞化が始まっていった年だったのです
そうしてますます不況になっていったのです
美しい琵琶湖の風景
美しいカメラは寅さんの映画とは思えない程で、びっくりです
かたせ梨乃37歳、色っぽい上品な人妻
ボルボのステーションワゴンは、当時ちょいとブームの人気車種でした
彼女が乗るにふさわしい車です
ごつい携帯が登場しています
寅さんシリーズ初登場です
コミュニケーションの手段が個人から個人にダイレクトになされるようになるのです
家の電話で家族を通じてコミュニケーションしていく寅さんの昭和な世界が変わり始めた最初の兆しです
牧瀬里穂は23歳
1989年、山下達郎のクリスマスイブの歌で知られる新幹線のテレビCM でブレイクして、この頃はCM女王と言われていました
滋賀県長浜市
黒壁スクエアの辺りは本当に絵になる素晴らしいところです
コロナ禍が無ければまた訪れてみたいところです
ワープロ専用機の全盛期です
どこの会社でもOASYSという富士通のワープロが大量に導入されていました
満男はそれに菜穂の文字を何度もそれも4倍角という、大きいポイント数で入力していました
今ではワープロ専用機はパソコンに駆逐されてしまいどこにも残っていません
この翌年の秋Windows 95が発売されています
「結婚が女のしあわせとは思わない」
菜穂ちゃんがそう口走ります
晩婚化が急速に加速していったのは、この頃のことでした
寅さんを乗せて鎌倉に向かって走る、満男が借りた営業車にはカーナビがついていません
当時はまだ道路地図帳を頼りに走っていたのです
よく迷子になったものでした
でも対向できないような細い道に入り込んでしまうのはカーナビのある今でも同じです
エピローグはいつも通りお約束の正月シーンです
今年も泉ちゃんは来ません
もう3年連続になってしまいました
泉ちゃんから年賀状も来ていないのでしょうか?
満男の頭の中には、これっぽっちも泉ちゃんのことは無くなってしまっていました
代わりに菜穂ちゃんが訪ねてきて、大喜びしてしまう満男でした
何年も放置された泉ちゃんの心を少しも考えられない満男なのでした
これが次回作の伏線になっています
次回作の第48作では、泉ちゃんが突然見合いをすると言いにくるのです
そりゃ3年以上放置したら、そうなるのは当たり前です
それでもハッピーエンドで、1996年のお正月を迎えていました
さくらも名古屋に挨拶に行かないととか、その年の内に泉ちゃんとの結婚が決まるものと確信しています
しかし第49作では、27歳になった満男はまだ結婚もせず、恋人もなく寂しくしょぼくれて生きていました
第50作では、50歳になった満男は泉ちゃんとも菜穂ちゃんとも違うひとみという女性と結婚して娘も作っていたことが分かります
そんな満男と結婚したひとみさんという女性は、第50作ではすでに死別しており七回忌でしたので、結局劇中では一度も登場しません
担当編集者の高見さんにそっくりな遺影がチラリと写されるのみです
ひとみさんは、一体どんな女性だったのでしょうか?
こんな駄目な男を結婚にまで持ち込んだのですから、相当できた女性に間違いないと思います
自分には、庵野秀明監督の奥様のイメージがあります
妻であり母である、そういう女性なのだと思います
担当編集者の高見さんという女性のひととなりを丁寧に紹介されていたのは、ひとみさんはこのような人ですと教えてくれていたシーンと思います
次の第48作では、野田という女性から満男の家に電話がきたとか他に何人も付き合っている女性がいるらしいとさくらが言っていました
菜穂ちゃんとはその後どうなったのかは不明です
結局、泉ちゃんみたいに長距離恋愛でほったらかしのまま忘れ去られたのかも知れません
恐らく自然消滅してしまったのでしょう
ひどい男です
大いに反省しないといけません(汗)
こんな男になってはなりません(汗)
悪いことはいいません
こんな男と付き合っている女性は早々に見切りをつけましょう(真顔)
泉ちゃんはヨーロッパの大学をでて、向こうで結婚もし子供もいるようです
恐らく第49作の1997年以前に、泉ちゃんとは別れたようです
結局今までの繰り返しで、満男が煮えきらなくて
泉ちゃんは待ちくたびれてしまったのです
リリーさんが、泉ちゃんがヨーロッパに行くのを引き止められなかったからじゃないのというシーンが第50作でありました
第41作では、竹下景子が演じたマドンナが、ウィーン空港で日本への帰国しようとするのを、出発ゲートに入る寸前で恋人が止めるエピソードがありました
どうもそれの成田空港版が満男と泉ちゃんとで第49作の1997年の夏辺りであったようです
でも、やっぱり不発に終わったということです
泉ちゃんがヨーロッパに向かった理由は定かではありません
きっと満男が結婚に踏み切れなかったので、津山の結婚式のようにまた満男に決断を彼女なりに迫ったのでしょう
泉ちゃんは頭の良い子でしたが、ヨーロッパに留学しようと考えるほどの女性ではありませんでした
彼女を、成長させた人物の存在を感じます
渡航費用や留学費用も彼女や母の玲子には工面できるはずもないのです
ヨーロッパのおばさんの所と彼女はいっています
第41作「寅次郎心の旅路」で淡路恵子が演じたウィーンのマダムが思いだされます
もしかしたら、泉ちゃんの伯母さんだったのかも知れません
二人の運命はこのあと20年以上も交差することはなかったのです
まるで、寅さんとリリーさんが、ハイビスカスの花から紅の花まで15年交差することがなかったように
第50作ではリリーさんは神保町の地下のカフェバーのママさんでした
そこに寅さんの姿は見えません
行方不明のままのようです
近況を教えあう満男と泉ちゃんのシーンは涙腺が決壊してしまいました
ラストシーンは雲仙の雄大な光景です
見下ろす遥かな平野
本当に遠くに来たもんだ
そんな寅さんの声が聞こえるように思えます
地理的なことではありません
リリーさんと15年も疎遠でいた年月のことです
次回作は実質的な最終回になるのです
阪神大震災まであと15日前のことでした