男はつらいよ 寅次郎物語のレビュー・感想・評価
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生まれて来て良かったと思うために
"男はつらいよ" シリーズ第39作。
Huluで鑑賞。
夢のシーンで寅さんが少年時代に家出することになった経緯が少しだけ描かれていた。詳しくは「悪童 小説・寅次郎の告白」またはNHK土曜ドラマ「少年寅次郎」にて(笑)。
死んだ寅さんの仲間の息子・秀吉が、父親の遺言を頼りに柴又まで寅さんを訪ねて来た。なんと寅さんは秀吉少年の名づけ親らしく、彼の蒸発した母親・ふでを一緒に探すことに。
蛇の道は蛇で手掛かりを掴み、和歌の浦~吉野~伊勢志摩と珍道中。そこでマドンナの隆子との出会いもあったりしながら繰り広げられる母親探しロードムービーの行方や如何に?
名言ばかりが飛び出した本作。中でもラスト・シーン、寅さんと満男の会話に本作の全てが集約されていると感じた。
「人間はなんのために生きてんのかな?」。思春期特有の悩みを抱える満男の問いに、こう答えていた寅さん。「(中略)生まれて来て良かったなぁって思うことが何辺かあるじゃない、ねぇ…。そのために人間、生きてんじゃないのか…?」。
悩める甥に対して、真摯に答えようと寅さんなりに真剣に考え、捻り出したこの言葉。まさに金言だと思った。めちゃくちゃ心に沁みて来て、思わず涙が零れてしまった。
人生、いいことばかりじゃない。嬉しいこともあれば、辛いこともある。ある日突然不幸が襲って来るかもしれない。
でもふとした瞬間や日常の小さな出来事だったり、誰かとの出会いが幸せを運んで来ることだってあるかもしれない。
それが人生の面白いところなんだろうなぁ…
嫌なことももちろんあったけれど、嬉しかった出来事なんかも含めて、それらが確実に、自分自身を形づくっている。
それに気づけた時に、生きていて良かったなぁとか、生まれて来て良かったなぁと、実感出来るのかもしれない。
この寅さんのセリフこそ、シリーズを通して描かれているテーマの集大成ではないだろうか。「男はつらいよ」は人生に必要なことを教えてくれる、素晴らしいシリーズだと思う。
※修正(2024/07/05)
人は、何の為に生きているのか
シリーズ39作目。
残り10本。いよいよカウントダウン!
OPの夢は、寅さんの少年時代。
親父に折檻され大喧嘩し、さくらの「お兄ちゃん!」を後ろ背に、旅立つまで。
寅さんファンなら誰もが知るエピソードを、無声映画風に。
尚、今月からNHKで、寅さんの少年時代を描いたTVドラマ『少年寅次郎』が放送。こちら、見てみよう!
満男が柴又駅で出会った一人の少年。
寅さんを訪ねて来たらしく、あまりの奇遇さに満男は飲んでいたジュースを吹き出してしまう。
遥々福島県郡山市から…って、私が住んでいる町ではないか!
なので、いつも本作を見るとこの秀吉少年に親近感を感じてしまう。
かの天下人のような大層な名前の名付け親は、寅さん。内向的な秀吉くん、名前負け…かな。
寅さんのテキ屋仲間の息子。が、ろくでなしの父親は死に、苦労続きの母親は蒸発。つまり、孤児(みなしご)。
父親から、俺が死んだら柴又の寅さんを訪ねろ…と言われてこうして来たのだけれど、
とらや一同、困惑。
そんな時帰ってくるのが、この男!
寅さんあるあるだと、「誰だ、このハナタレガキ…?」と言う所だが、珍しく秀吉の事を覚えていた。
事実を聞くなり、母親を見付けてやる事を約束する。
早速テキ屋ネットワークを使い、母親の足取りを掴む。
秀吉を連れ、母親を訪ねる旅へ。
和歌山県~奈良県吉野。
女中をしてた旅館を方々訪ねるが、何処もすでに居ない。
道中、秀吉が高熱を出して寝込んでしまう。
老医者(演・松村達雄)から、「何でこんなになるまで放っといた!?」と怒られるくらい病状悪い。
が、色々助けもあって、何とか回復。
寅さんと秀吉少年の旅は、心配した通り心配だらけ…。
そんな時有難いくらい力になってくれたのが、旅館の隣室に泊まっていた一人の女性。名は、隆子。
寝込む秀吉に一晩、付きっきりで看病。
隆子は寅さんと秀吉を実の親子と勘違い。老医者や旅館主は家族と勘違い。
そんな誤解もあって、ついつい互いを「父さん」「母さん」と呼び合う。
心配して電話を掛けたさくらはそれを聞いて呆然…。
心優しき隆子だが、実は彼女も訳ありで…。
マドンナ・秋吉久美子が色っぽさも滲ませて好演。
秀吉の母親が今居る所が、三重県伊勢志摩と判明。今度こそ、間違いない。
果たして、薄幸な母子の再会は…?
人情物語故、結末は予想通り。
寅さんの善意に、御前様からも惜しみないお褒めの言葉を。
母と子の涙の再会もさることながら、
役目を終えた寅さんと秀吉の別れも涙を誘う。
本作や『菊次郎の夏』もそうだが、堅気じゃない男と孤独な少年の交流はグッとさせられるね。
母親に五月みどり、病床の彼女を温かく世話する真珠店の女主人に河内桃子…ゲストも豪華。
本作で美保純演じるあけみが最後の出演なのは残念で寂しい。(でも、年末の新作にカムバック!)
寅さん版母を訪ねて…なロードムービー。
マドンナとの仄かな恋慕。
みなしごを母親の元へ送り届ける…とは聞こえはいいが、孤児の保護施設からは現実的な注意も。
本作も安定のシリーズの一作に見えて、実は非常に奥深いテーマに踏み込んでいる。
孤独な少年。
薄幸のその母親。
隆子も男に捨てられ、どうにでもなれ…と思っていた。
満男も進路で思い悩んでいた。
人は、何の為に生きているのか。人の幸せとは…?
終盤、満男がおじさんにズバリ聞く。
「人間って、何の為に生きているのかなぁ…?」
「あぁ生まれて来て良かったなぁって思う事が何べんかあるだろ。その為に生きてるんじゃないのか」
苦楽を経験した事の無い幸せ者や裕福者には響かないだろう。
でも、苦楽を経験した事ある人には…。
ふとしたきっかけからの出会い、再会、別れ、人助け、優しさ、幸せ…。
寅さんだから言えるこの台詞。しみじみと。
個人的にこの台詞は、シリーズでも一番。
…いや、映画好きになって多くの映画を見てきたが、中でもBESTに挙げてもいいくらいの名台詞!
昔、知人にこの台詞を聞かせたら、下らねぇとばかりに小馬鹿に失笑された。
コヤツだけではなく、結構色んな人にこの台詞を聞かせる事があるのだが、ほとんど笑われる。
笑うなら笑えばいい。馬鹿にするなら馬鹿にするがいい。
でもきっとコイツだってその他知り合った人たちだって、そう思えるひと時がいっぺんでも無いと言ったら、それは嘘だ。
人は、何の為に生きているのか。
そう。人は、生きて来て良かったと思える幸せの為に生きている。
ありふれて、とても深い。
素晴らしかった
寅と名付け子の秀吉が旅をする、ちょっとした里親展開で泣ける。実母の勤める真珠屋のおかみさんや島に渡る船の船長が人情に厚くて、今回は特におばちゃんも情の深さが全開で泣けたのだった。素晴らしい傑作なのだけど、先日読んだ滝口悠生さんの『愛と人生』で盛大にネタバレしていたので、なんだか残念だった。この映画を見てから読みたかった。
(追記)
東京新聞サイト「すくすく」で連載中の『里親映画の世界』で紹介するために見返した。改めてみてストーリーがとても面白い。キャストもいい。シリーズ屈指の傑作ではないだろうか。
寅さんが子どもを連れて歩いているのもいい。寅は子どもを子ども扱いしないのだけど、目線の高さが一緒なので楽しそう。前に見たときは、寅は子どものままだなと思ったのだけど、改めて2回目では、別れの場面で芽生えた愛着を無理矢理断ち切ろうとしていることに気づいた。それが父性なのかはわからないけど、秀吉と別れがたく思っていたのはよく分かった。
満男の成長
人間はなんのためにいきてるのかな
なんていうのかな
ほら 生まれてきてよかったなーって思うことが何回かあるじゃない そのために人間は生きてるんじゃないか?
そのうちお前にもそーいう時がくるよ
最後の最後に重いテーマ
考えさせられる作品でした
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