「片や顔が二枚目、片や心が二枚目」男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
片や顔が二枚目、片や心が二枚目
シリーズ30作目。
OPの夢は、
犯罪蔓延るブルックリンに現れたキザなジュリーがナンパしようとした女は、“ブルックリンの寅”の妹。罵られ、カッとなったジュリーの前にシャバに戻ったばかりの寅が現れる。対峙するが、ジュリーは寅に貫禄負けして退散。かくして平和が戻り、町の若者たちは踊り出す…。
日活無国籍アクション×松竹歌劇団ミュージカル風。
序盤の騒動は、
帰ってくるなり店の鼻先で幼馴染みと恥ずかしいくらいのイチャイチャやり取り。
おかんむりのおいちゃん。
夕食は御前様から頂いた松茸。
入ってねぇじゃねぇか!と文句言ったり、満男の分を盗んだり…。
いよいよ堪忍袋の緒が切れたおいちゃん。
「出てけ!」
「それを言っちゃあおしまいよ!」
さくらも止めようとはせず。
シリーズでも最も後味悪い序盤騒動。
ご安心を。本筋の方は至って平常運転。
旅先は大分。馴染みの温泉宿に泊まっていると、一人の青年が訪ねて来る。
その青年・三郎の母はかつてこの温泉宿で女中として働いていたが、先日他界。三郎は母の遺骨を持って母の思い出の地にやって来たのだった。
寅さんの計らいで、馴染みの面々を集めて供養。
たまたま宿に泊まっていた東京から来たデパートガールの蛍子も焼香させて貰う。
後日、再会。寅さん、三郎、蛍子らで楽しくドライブ。
そんな中、三郎は蛍子に一目惚れ。別れ際、不器用に告白。
蛍子も返答に困る。
全く、見てらんねぇぜ。
と言う事で、寅さんの出番。今回は、若者の恋の指南役。
顔は二枚目だが、“変わり者”なくらい不器用。仕事は、動物園のチンパンジー飼育員。当時、二枚目スターとして人気だった沢田研二がイメージとは真逆の内気な青年像がハマってる。
いい家のお嬢さんで一流デパート勤め。寅さんとは気兼ね無く話せるのに、三郎との関係は進展せず。田中裕子がナチュラルな好演。
本作の共演がきっかけで二人が結ばれたのは有名なエピソード。(後のシリーズ37作目『幸福の青い鳥』の長渕剛と志保美悦子も有名な“寅さん結婚”)
もはやお馴染みだが、恋に不器用な若者の為にデートの仕方まで細かくコーチする寅さん。
フラれると同じくらい、寅さんの本領発揮。
本作は印象的な台詞も多い。
蛍子は三郎をいったん断る。その理由が、「だって、あんまり二枚目なんだもん」。
寅さんはその事を三郎に伝える。三郎は落胆しながらも反論。「寅さん、男は顔ですか!?」。
二枚目を逆手に取った自虐的なネタが可笑しい。
自分の恋は上手く行かないが、他人の恋は結果的に成就させる。
三郎は遂に勇気を振り絞って告白しようとするが、なかなか言葉が出てこない。
「口で言って」「好きや」
二人の想いが実り、観覧車の中でキスするシーンは、実際に二人が結ばれた事もあって、シリーズでも屈指のラブシーンとも言えよう。
ラスト、再び旅に出る際、本音がポロリ。
「二枚目はいいな。ちょっと妬けるぜ」
二枚目で心も純真な青年を立てるかのように、結果三枚目に徹した寅さん。
確かに四角張った顔の三枚目。でも、心は…。
寅さんほどの二枚目心の男はそう居ない。