「人間は何故死ぬのでしょう…?」男はつらいよ 寅次郎純情詩集 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人間は何故死ぬのでしょう…?
シリーズ18作目。
OPの夢は、北アフリカの港町。“アラビアのトランス”の元に、日本から兄を探しに妹が訪ねて来て…。
前作の『JAWS』同様、名作洋画(『カサブランカ』)のパロディー。
今回寅さん、序盤からさくらたちに迷惑掛けっ放し。
産休中の担任教師に代わり、大学を出たばかりの若く綺麗な先生・雅子が満男の家庭訪問に。
当然の如くこういう時に帰ってくる寅さん。
さくらや博は満男の事で色々相談したいのに、美人の先生にポ~ッとなって、バカ話してしゃしゃり出る。毎度の大喧嘩。
旅に出た寅さんは、馴染みの旅一座と再会。大盤振る舞いし、金を払えず、警察にご厄介。さくらが迎えに行くが、さすがにもう呆れ果てる。
やれやれ…。
でも、今回ばかりは大目に見て上げて。
何故なら本作は、“悲劇”なのだから。
無銭飲食や家庭訪問の事で妹から叱られる兄。
真面目に生きてたら先生のような娘が居てもおかしくない。なのに、娘ほどの若い女性に惚れたりして…。先生のお母さんだったらまだしも…。
と、そこへ、雅子先生が母親を連れて訪ねて来る。(さくら、呆然…)
雅子の母・綾は、長らく入院していたが、晴れて退院。懐かしの場所を訪ねていた。
実は、寅さんやおいちゃんおばちゃん、タコ社長は全く知らぬ人ではない。
その昔、悪ガキだった寅さんやまだ工場の下っ端だったタコ社長にとっては、高嶺の花の存在だった良家の評判の美人お嬢様。
演じるは、大女優の京マチ子。
気品たっぷりながら、長い入院生活で世間知らずで子供のように純真。軽妙に愛らしく演じている。
雅子役は、壇ふみ。その若々しさ、美貌は特筆モノ!
今回は母娘の贅沢なWマドンナ。
すっかり綾に一目惚れの寅さん。
お屋敷に招かれては豪勢な洋食を戴いたり、
ピクニックに出掛けたり、
とらやに招いて素朴な田舎料理を振る舞ったり、
一度も働いた事が無いという綾の為にどんな仕事が似合うか皆で楽しく談笑したり…。
そんな楽しい幸せな日々は束の間…。
ある日さくらは雅子から、母が余命僅かである事を知らされる。
実は退院も残り僅かの日々を自由に生きて欲しい為に…。
次第に綾の体調が悪くなっていく。
そして、その時が…。
序盤の旅で再会した旅一座の演劇の台詞、綾のある台詞が本作を物語る。
「人間は何故死ぬのでしょう…?」
生きとし生ける者には限りある生命がある。
仕方のない事。
でも、単にそれだけでは納得出来ない、言い表せられない、不条理なものを感じる。
突然そして呆気なく訪れた最期の時、
終盤の寅さんと雅子の会話、
再び旅立つ前の寅さんとさくらの会話…。
涙ナシには見られない。
マドンナが死ぬという初めての展開。…いや、唯一。
もはや喜劇ではなく、悲恋劇。
が、ただ悲しいだけじゃなく、束の間だが人と人の触れ合い、幸せ、しみじみと、温かな感動。
個人的には、珠玉の一本!