江分利満氏の優雅な生活のレビュー・感想・評価
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酔っ払いサラリーマンの人生から覗く「昭和という名の激動と倦怠」
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確か岡本喜八が自作で一番気に入っていると発言したことがあったはずで、主演の小林桂樹の間違いなく代表作でもある。そして、原作者の山口瞳の、反骨心を秘めた酔っぱらいのサラリーマンという持ち味もまたみごとに映像化されていて、三位一体、黄金のトライアングルではないかと思う。
一見、一サラリーマンが酒を飲んでクダを巻く、庶民のグチが面白いみたいな映画に見せかけるが、実はこれは日本の昭和史、それも戦中と戦後という時代の隔絶を描いた、ある時代の日本そのものを描いた作品であるとわかる。ただし監督が岡本喜八なので、あの手この手で映像的に遊びまくる。喜八の前衛性と笑いとペーソスが、非常にいいバランスで成立している傑作である。
ただ、人によっては傑作なのか首を傾げるかもしれない。というのも、終盤はそれまでのペースを捨て、ひとりのサラリーマンの悲喜こもごも人生というベースからも逸脱し、本気で若い作中人物二人と観客とを、ヘトヘトにさせ、辟易させ、うんざりさせにかかるからだ。
しかし、一体なにが起こってんだ?というゆがんだ時間の流れから、やはり戦中派である喜八の、山口瞳の、忘れようにも忘れられない戦争の記憶が浮かび上がり、虚を突かれるように感動してしまう。商業監督として非常に攻めた、そしてリスキーなクライマックスであり、映画作家・岡本喜八のひとつの金字塔であると確信している。おそらく喜八の最高傑作。
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