絵の中のぼくの村のレビュー・感想・評価
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様々な要素を詰め込んだ名作
見始めてすぐに、1948年の日本を描いた映画なのに、ヨーロッパの古楽風の音楽に驚かされた。(エンドロールによると、カテリーナ古楽合奏団の「Ductia」というアルバムだ。)
また突然、神様とも妖怪とも言えない「老婆3人」の“狂言回し”が出てきて、ヒソヒソ話を始めるのも奇怪である。シェイクスピアの「マクベス」の3人の魔女とは異なるが、似たようなファンタジーをもたらす。
日本では全く評価されなかった本作が、そういうヨーロッパの伝統的な要素によって、ベルリンの聴衆の心をつかみ、「銀熊賞」という成功につながったのは、間違いないだろう。
短いエピソードが次々と展開され、コマ切れの連続なので初めは面を食らうが、次第にそういう流れにも馴れてくる。
実にいろんなシーンが詰め込まれており、112分が長く感じない。
子役も含めて、俳優は明快な演技で、“人間関係”や“社会背景”を映し出す。
「近所づきあい」が苦労な、田舎生活。
同級生の「よそ者扱い」。軍隊上がりの「教師の暴力」。
農地改革で土地を失った、ケチで怖い「ジンマ」(祖母の弟)とその死。
「センジ」の非行と、世間の冷たい仕打ちとの悪循環。
そして、楮(こうぞ)から和紙の繊維を取る、貧しい家庭の「ハツミ」。
兄弟に気がありそうな彼女が手を振る笑顔は、この映画で最高に美しいシーンだ。
“自然”が豊かな情景描写も良い。
チンチン丸出しの「川遊び」。川での「釣り」や、溺れてしまうシーン。
森での「鳥」の捕獲。修験者の「ホラ貝」。
“性”についても描かれる。
久しぶりに帰宅した父と、その夜のあえぎ声。
姉の乳首を触ったことで、母が風呂場でいさめるシーンでは、当時38歳の原田美枝子が乳房を露わにする。
様々な要素をもつ作品であるが、いかにも少年らしい双子の“活発さ”と、それを優しく見守る“母性”を軸とした、一本、筋が通った名作である。
コテコテの土佐弁といい、映画「竜とそばかすの姫」などよりも、よほど高知の地域色豊かな作品ではないだろうか。
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