劇場公開日 1959年12月26日

「本作は世界中の初期のSF映像作品に多大な影響を与えているのは間違いありません 重要性は地球防衛軍よりも高いのではないでしょうか」宇宙大戦争 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5本作は世界中の初期のSF映像作品に多大な影響を与えているのは間違いありません 重要性は地球防衛軍よりも高いのではないでしょうか

2019年12月9日
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鑑賞方法:DVD/BD

いやあ、もう小松崎茂のイメージに酔いました
酔いしれました

この小松崎茂のSFメカと伊福部昭の景気の良いマーチ!
もうこれにつきます
誰しもが持っている少年の心が疼きます
目を輝かせて手に汗握って食い入るように観てしまいます

これを極上の味わいであると陶然と出来なければ本作を観る意義も意味ないでましょう

科学考証は部分的には取り入れられていますが全般的に目が行き届いてはいません
あくまで宇宙の大戦争のイメージが最優先されています
ストーリーも同様でとてもSFと言えたものではありません

それでも1959年の作品です
人類初の人工衛星は2年前、有人宇宙飛行は2年後の時点でこの映像を送り出したのですから、この宇宙の大戦争の映像は間違いなく当時の世界最先端だったはずです
世界中のスタジオがこれ以上のものを撮れなかったのはハッキリしています

殊に宇宙センターからの2機の宇宙哨戒艇の発進シーンは見事につきます
エレベーターで発射台を昇り宇宙艇に乗り組むシーンは、現実の有人飛行以前であるのにこのクオリティーで、部分的には目も覚めるほどの出来映えと考証をみせているのです

白い船内服、船内宇宙帽のカッコ良さには痺れます
これも見事な考証です

宇宙哨戒艇の噴射ノズルや月面車両も、良くみると、後半にはその表面にウェザリングまで施されているのです
これは特にアンダーソン作品に強く意識されて継承されていく要素です
そう言えば謎の円盤UFOのムーンベースの月面での宇宙服は本作のものに似ているようにも感じます

アメリカでは2年前に禁断の惑星というSF映画の不朽の名作を送り出してレベルの高さを示しています
本作の冒頭のクレジットの字幕が黒い宇宙を背景にして黄色の文字であるのは、その禁断の惑星へのオマージュであると思われます

しかし本格的なスペースオペラの宇宙戦闘を映像化するのは10年年後の宇宙大作戦まで待たねばならず、本当の宇宙での空中戦は20年後のスターウォーズまで待たなければならなかったのです

イギリスのアンダーソン作品はまだこれからのレベルでサンダーバードは6年も後になるのです
宇宙での戦闘シーンとなると謎の円盤UFOで11年後になってしまいます

本作は世界中の初期のSF映像作品に多大な影響を与えているのは間違いありません

宇宙センターのコンピューターの制御盤が壁面を埋めて無数の電球を明滅させるビジュアルはタイムトンネルなどのアーウィン・アレンの特撮もののルーツと感じます
タイムトンネル自体、本作の熱線砲のテストトンネルのビジュアルそのままです

宇宙センターの地下シェルターから宇宙戦闘機や熱線砲を地上に押し出してくるイメージはアンダーソン作品の海底大戦争スティングレイのマリンビル基地の元ネタになったように思えます
そしてそれはさらに後にエヴァンゲリオンの第3東京市に継承されていくわけです

宇宙哨戒艇の出撃式のシーンは宇宙戦艦ヤマトの乗組員が行進して乗り込む元ネタになっているようにも見えます、

女性が司令部や宇宙船の通信やレーダー手として活躍する場を与えられるのも本作が世界初だと思います
宇宙大作戦のウフーラ中尉や謎の円盤UFO のエリス中尉、宇宙戦艦ヤマトの森雪、エヴァンゲリオンの伊吹マヤも本作が無ければ存在し得たか分かりません
もっと言えばウルトラマンのフジ・アキコ隊員も本作が由来だと思います

冒頭の車輪型の宇宙ステーションは、当時良く未来の想像図に登場していたものですが、そもそもその想像図自体が殆ど全て小松崎茂が描いていたものです

それを映画として登場させ、遠心力による人工重力を得ているところまで見せているのは、2001の宇宙の旅に9年も先行していたのです

その2001年宇宙の旅にアート的な美術の影響を与えたチェコスロバキアの1963年のSF映画イカリエ-XB1と比較しても、本作の特撮はそれよりも数段以上優れていると断言できます

世界レベルで劣っていたのは、アート的な美術感覚、本格的なSFとしての重厚なストーリー、全編に神経を行き届かせた科学考証であり、これらは結局のところ現代に至るまで解決されていない日本SFの弱点です

ともあれ、1959年この時点で日本が送り出した本作のイメージは世界最先端であったのは間違いないのです

重要性は地球防衛軍よりも高いのではないでしょうか

あき240