「悩ましい」雨月物語 ツネさんの映画レビュー(感想・評価)
悩ましい
・妻のため、子供のため、自分のために貧しさから抜け出そうとお金への執着心が強まった夫と今のように貧しくても平穏でいたいという主人公の妻との葛藤が、とても悩ましい。もう一人は武士になって出世して暮らしを楽にしたいという夫と身の丈に合ってないことをやめなさいと止める妻(主人公の妹?)、こちらは武士になるのはやめた方が絶対いいじゃんと思うが、夢(と転換して解釈してしまう)を追おうとしているという意味で悩ましい。どちらも、現状から抜け出そうという前向きな理由だけど、観ている分にはとても不安な気持ちになる。成功しても失敗しても何だか不幸になるような予感が凄くて、映画としては面白かった。実際にその暮らしになったらストレスで耐え難そう。
・正確な歴史の流れはわからないけど、柴田藩?が攻め込んできて村へ襲いかかってきたのに一度大金を手にしたことによる夫の豹変ぶりが命より金っていう感じで怖かった。諦めたかと思った武士への憧れが残っていたのも怖かった。前向きな感情が不安の原因っていうのが凄いなぁと思った。
・既に廃墟と化していた貴族?の幽霊が夫と共に暮らそうとせがんでいたところで、流されてしまう感じや、着物を買うシーンでその前には妻のため、その次には幽霊の女のため、と演出が良かった。
・家族のためにと危険を承知で出た街で、商売は成功するも妻は殺されるし武士としての出世が叶うも妻は身を落としていて皮肉な結果となって切なさが凄かった。全体を通して、とにかく悩ましい。主人公たちは何をしたら幸せになれたのか、全然わからない決められた運命というものの引力というのか重力というのか、抜け出せない迫力を感じられた凄い作品だった。
・幽霊に憑りつかれてる人あるあるで除霊してくれる坊さんが必ず現れるけど、頭に茣蓙をほっかむりの上に乗せてて面白かった。体に梵字?の呪文が書いてあったけど、おばあさんはそんなに苦しくなさそうに触れたのが地味に謎だった。
・最後の主人公のナレーションに集約されているけど、人間、やってみての失敗がないと納得、変わる事ができない業を背負っているもので、都合よくうまくいかないのがとても面白かった。子供が母親の墓に昼食?を手を付けずにおいたのが泣きそうになった。