劇場公開日 1953年3月26日

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雨月物語のレビュー・感想・評価

全39件中、1~20件目を表示

4.5溝口作品の傑作に触れる。祈りにも似た思いに触れる。

2020年4月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

溝口作品でも評価の高い本作は、戦によって村人のささやかな幸せが無残に奪われていく様と、非常時に試される愛の形といった部分が際立った幻想譚だ。物語自体は江戸時代に執筆されたというが、1953年という製作年から考えると、観客の多くはこの戦争をつい数年前の「太平洋戦争」として受け止めたはず。家族と生き別れたり、死んだ妻と会いたいと思ったり、どうにかして生き残ろうと歯をくいしばる姿には、当時の人々の胸の内側が大いに反映されたことだろう。もちろん、湖に立ち込める不気味な霧に始まり、お屋敷にはびこる生き霊、そしてラストを飾る妻の逸話に至るまで、心の内側に隙間風が吹くような不可思議なエピソードとそれを見事にまとめ上げる演出には舌を巻くばかり。それら決して美の範疇で終わらせず、自宅に灯った明かりがもう二度と消えませんようにと、こちらを祈りにも似た気持ちにまで高める流れに、溝口作品の真骨頂を見た思いがした。

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牛津厚信

4.0タイトルなし(ネタバレ)

2025年2月8日
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まゆう

4.0なにもかもシームレス

2025年2月5日
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鑑賞方法:VOD

地獄も天国もあの世もこの世も時間もシームレスに繋がっていき、まさに映画マジックを感じながら観ました。
そしてそのシームレス感、違和感のなさは凄く日本的なのかもしれない。
あの世の姫が醸し出す肉体感、この世の戦と飢えの絶望感、それらが渾然一体となって画面に収まっていて、見事に眼福でした。

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あした

4.0まずまずの出来、という程度

2025年1月23日
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世界の映画史に残るほどの傑作、ということなので、観終わったらとてつもない感動が身を包み、大きなため息をつかなくてはいけません。

まあまあ面白いとは思いますが、それほどの傑作とは感じません。
羅生門もベネチア取った前提で観るので悪口言っちゃいけない雰囲気がありますが、それほどではないのと同じです。もう少し原作に忠実に幻想的、幽玄的な趣が欲しいところです。

この頃の名作、七人の侍、東京物語、浮雲なんかは確かに世紀の傑作と感じますし、溝口親分なら近松なんかの方がドラマチックで素晴らしいと思います。

しかし、森先輩という人は、羅生門、雨月、浮雲で三巨匠の主演とはすごい、小津の名作に出ていれば四冠達成でしたが。

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越後屋

4.0映画終活シリーズ

2025年1月23日
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鑑賞方法:VOD

1953年作品
ベネチア国際映画祭銀獅子賞受賞

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あきちゃん

4.5傑作

2024年11月26日
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鑑賞方法:その他

なんと妖艶な!さすが歴史的傑作、レベル違いの美しさでした。上田秋成の小説+モーパッサンの短編を元にした脚本は素晴らしく、ヒューマンドラマとしてのメッセージもバッチリです。観てよかった!時を超える名作とはこういう作品か。

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tomoboop

5.0教訓と伝奇

2024年7月11日
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雨月物語とは上田秋成(1734~1809)という歌人が書いた読本だそうだ。
読本とは江戸時代後期に流行した伝奇小説集。南総里見八犬伝や本朝水滸伝など、勧善懲悪や因果応報の作風で構成された大衆娯楽で貸本屋を通じて流通した、という。

映画雨月物語は雨月物語のごく一部であり、かつ雨月物語とは異なる話になっている。

『上田秋成の読本『雨月物語』の「浅茅が宿」と「蛇性の婬」の2編に、モーパッサンの『勲章』を加えて、川口松太郎と依田義賢が脚色した。』
(ウィキペディア「雨月物語(映画)」より)

二組の夫婦が出てくる。
源十郎は畑仕事の傍ら焼物(陶器)をつくって大金をえて味をしめる。
藤兵衛は侍になりたいという野望がある。

簡単に言うと、夫の利欲や不相応な野心によって妻に不幸がもたらされる──という話になっている。妻はいずれも、倹しくとも幸せに暮らせるならそれでいいと思っていて、じっさいに「あなたさえいてくだされば、あたしはもう何にもほしくはありません」という田中絹代の台詞もある。
ところが源十郎は欲をかいて焼物を売りに街へ出て、残してきた妻は落武者にころされてしまう。藤兵衛はにわか侍になったものの妻は遊女に成り下がる。

それら二組の夫婦の話をベースにしながら源十郎を幻惑する亡霊(京マチ子)の伝奇が絡んでくる。
市場で焼物を並べている源十郎のところへ明らかに高貴な出で立ちの女と女中がきて焼物を買い朽木屋敷へ届けるようことづける。

その段階では説明がないにもかかわらず京マチ子が演じていることによって亡魂にたぶらかされる源十郎という構図が見えてしまう。
つまり京マチ子の「明らかに現実的ではない妖艶」は彼女がこの世の者ではないことを最初から説き明かしてしまっていた。
羅生門と雨月物語には京マチ子の特別な女の感じ=不世出の女優の気配が濃厚にあったと思う。

源十郎は京マチ子演じる武家の亡魂に魅入られ朽木屋敷に入り浸って精気を吸われるが、神官に死相をさとられて呪文を身体に書いて難から逃れる。それは耳なし芳一のようだった。
やっと里へ帰って妻と子供に迎え入れられ束の間の幸福に浸る。が、それがアウルクリーク橋の出来事のような幻想落ちになっていて、実際には妻は亡くなり、子は村年寄が世話をしている。
一方藤兵衛の妻は「いくら言ってもおまえさんはばかだからじぶんで不幸せな目にあわなけりゃわからなかったんだね」と言ってふたりは再出発をする。

わかりやすい教訓に幻想が加わって映画の品位をあげている。加えて96分という尺に潔さがあった。
imdb8.2、RottenTomatoes100%と93%。

英題はUgetsuとなっていて海外でも絶賛されている。

『1953年にヴェネツィア国際映画祭に出品され、銀獅子賞を受賞した(金獅子賞は該当なしだったため実質的にはこの年の最優秀作となった)のを機に、1954年にアメリカ、1959年にフランスで公開されるなど海外でも上映され、フランスの映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』が発表した年間トップ10(英語版)では1位に選ばれるなど賞賛された。この作品もほかの溝口作品と同様に、ジャン=リュック・ゴダールやジャック・リヴェットなどのヌーヴェルヴァーグの映画人に大きな影響を与えた。

映画批評家のロジャー・イーバートはこの作品を「すべての映画の中でもっとも偉大な作品の一つ」と評しており、最高評価の星4つを与え、自身が選ぶ最高の映画のリストに加えている。マーティン・スコセッシはお気に入りの映画の1本にこの作品を選んでいる。BFIの映画雑誌『Sight & Sound』が10年毎に発表する史上最高の映画ベストテン(英語版)では1962年と1972年の2度のランキングでベストテンに選ばれた。また2012年のランキングでも批評家投票で50位、監督投票で67位に選ばれており、監督ではスコセッシ、マノエル・ド・オリヴェイラ、ミカ・カウリスマキらが投票した。2005年に『タイム』が発表した「史上最高の映画100本」にも選出されている。』
(ウィキペディア「雨月物語 (映画)」より)

映画は一家の主人が私欲や見栄で家族を蔑ろにしてはいけないと諫めている。あたりまえだとは思うし源十郎も藤兵衛も、おおげさに描かれているが、プリミティブな教訓にもかかわらず強い輪郭と説得力があった。今を生きるわたしたちは古い映画やそこにある教訓に対して解りきったことだ──という優越を持っているところがある。が、源十郎の欲や、藤兵衛の虚栄心はわたしたちが毎日ニュースや日常で見る俗物たちのカリカチュアになっていると思う。

『溝口健二監督作品『雨月物語』(1953年)、黒澤明監督作品『羅生門』(1950年)、衣笠貞之助監督作品『地獄門』(1953年)など、海外の映画祭で主演作が次々と受賞し「グランプリ女優」と呼ばれる。1971年(昭和46年)の大映倒産以降はテレビドラマと舞台を中心に移し、活躍の幅を広げた。大映社長永田雅一との恋愛関係が憶測された時期もあったが、生涯独身を通す。1965年(昭和40年)には、日本で初めての「億ション」、コープオリンピア(東京・表参道)を購入して話題となった。』
(ウィキペディア「京マチ子」より)

地味な田中絹代と派手な京マチ子のコントラストが雨月物語の印象を決定づけている。亡霊だとしても京マチ子にたぶらかされるのも悪くない、と思える一方で、貧しくてもにひたむきに夫を思いやってころされてしまう田中絹代に憐憫が湧いてくる。その動静のような陰陽のような対比が世の空しさと儚さを表象していると思った。

amazon prime Videoで見た。

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津次郎

5.0男は一旦の過ちで済むが、女はそうはいかない。

2024年2月18日
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アンドロイド爺さん♥️

4.5時の試練に耐える作品

2024年2月14日
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中学生の娘と見ましたが、序盤から食いついていて結構楽しめたようです。

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takantino

3.5湖畔

2023年12月3日
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霧立ち込める湖を一艘の舟が進む。美しい画角。ボロ屋に入ったかと思いきや、案外中は広いというか、結構なお屋敷に化ける。ラストのマジック。カメラが戻れば空気が変わる。何が空気を変えるのか?追求した者が体現できる映像美。カラーだったらどう表現したか興味も湧く。
男の野心と女の情念。妖気のないラストにおいても哀しみが漂う。現代的に更新してよいテーマ性であるが、それはそれとして楽しめる一本である。

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Kj

3.5欲と功名心を戒める

2023年11月15日
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鑑賞方法:VOD

知的

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parsifal3745

4.5悩ましい

2023年9月13日
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鑑賞方法:VOD

泣ける

悲しい

知的

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ツネ

4.0京マチ子の妖艶さがベネチア映画祭の男性審査員をも惑わしたか…

2023年8月1日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ここのところ、
少しまとめて溝口映画に接していたので、
録画していたこの作品も再鑑賞した。

最近の溝口映画鑑賞では、
長回し等の作風を意識していたが、
この作品では、その技法に関して、
あまり意識させられることは無かった。

テーマ的には、行き過ぎた金銭欲や出世欲を
戒める道徳論的な構成があからさま過ぎて、
作品の奥深さを感じることはなかったが、
この映画はむしろ映像美に浸るべき作品
なのかも知れないと思った。
壮大さはあったものの若干セット感のあった
「残菊物語」や「西鶴一代女」よりは、
リアリティ溢れる撮影・美術・演出による
映像美に進化した印象だった。

森雅之と京マチ子の組み合わせとしては、
黒澤の「羅生門」が思い出されるが、
相手の男性こそ
森と三船の違いはあるが、
彼らを惑わす女性は
京マチ子で共通しており、両作品に
金獅子賞と金獅子賞無しの年の銀獅子賞
をもたらしたのは、
ベネチア映画祭の男性審査員を惑わした
彼女の妖艶さではなかったか、
と想像もした。

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KENZO一級建築士事務所

3.5けっこう面白い

2023年5月24日
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吉泉知彦

4.0映画文法を網羅した素晴らしい作品の理由。

2023年4月29日
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鑑賞方法:VOD

笑える

単純

知的

内容は、江戸時代に記された話を元ネタに踏まえた、男3人女3人の人間模様愛憎劇。海外でも評価が高い理由が頷ける作品です。印象的な台詞は『人も物も所によってこうも値打ちが変わるのか?!』価値観の違いを戦争という時代に照らし合わせて表現した上手い台詞だと感じました。戦国時代の背景が第二次世界大戦後の日本を感じさせる様で印象に残りました。『死ななかった。死にきれなかった。。』この台詞も葛藤に苦しむ女性の性と願望が交差して非常に情念が伝わって苦しくなりました。印象的な場面は、最後の姫様(京マチ子)に鬼気迫る勢いで源十郎は、帰りを拒絶され『いいえ返しませぬ!』凍てつく様な白い吐息が、現実との乖離を表現していてとても怖かった。ありゃ夢に出るなぁ。印象的な状況は、戦争の後の無法地帯が上手く描かれていた事と、場面展開が緻密に計算され非常に見やすく映画文法に沿った基本をしっかり押さえあるので、台詞回し無しでもパントマイムの様に伝わる人間としての万国共通真実の片鱗を感じられる所が非常に秀逸で感動しました。流石日本を代表する三大映画監督だと勉強になりました。

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コバヤシマル

2.5やっぱり京マチ子、だよなあ…

2023年2月19日
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鑑賞方法:映画館

この作品は、スクリーンで観なきゃダメな日本映画の筆頭だと思っていて、やっと観ることが出来たのだが…
う〜ん…
これは過大評価されすぎ。
期待していた幽玄な美は然程でも無かった。
昔、淀川長治も、その美意識の程を絶賛してはいたが、それほどでも無かったなあ。
あと4Kのリマスターも、思ってたほど解像度が上がってなかったような…
あれが、ほぼオリジナルの映像と言われれば、それまでの話なのだが。

ゴダールをはじめ、名だたる海外の監督たちは何処がそんなに良かったのか?
確かに素晴らしいシーンは幾つもあるが(特に舟漕ぎのシーン!)
メインのストーリーと並行していた立身出世の話の方は特に必要は無かったし(ああいう女が犠牲になって男が出世する話が、とにかく溝口健二は好きらしいけど)、もっと奇怪な世界観にどっぷりフォーカスして欲しかった。

特にオープニングは、あの舟漕ぎのシーンから始めるべきだったなあ。
あそこまでの話の流れは、主人公を含めた三人の会話の中に取り込んでしまえば、コンパクトにまとまったと思うし、瀕死の男を乗せた舟との遭遇によって、冒頭から不穏で不吉な雰囲気バッチリで、掴みもオッケーとなったはず。

あと、俳優陣も京マチ子以外はイマイチ…
溝口健二も当然ながら演技には厳しかったようだが、実際のところ本作では、黒澤明ほどの数ヶ月にも及ぶ執拗な演技指導(というか鬼のようなダメ出し)などは、脇役や子役も含め、然程やってなかったんでは?
リアルを追求してるのは分かるが、結果、見えてくるのは、リアルに見せようと努力している職業俳優に過ぎなかったりする。
森雅之も田中絹代も、ホントはもっと出来たと思うけどなあ。

その点、京マチ子は素晴らしい。
彼女の存在なしでは全く有り得ない。
ああいった役柄で、ああいう絶妙加減な芝居が出来る女優は、たぶん他にいなかったと思う。
山田五十鈴でも出来たかもだが、ちょっと怖さの方が妖艶さより強く出て来そうだ。
大映の女優限定という事情もあっただろうが、たぶん『羅生門』を観て、溝口健二の頭の中では、もう京マチ子しか有り得なかったのでは?と思う。
なので本当は、もっと妖艶なシーンを撮りたかったんじゃないかな?
てゆーか、そっちをもっと観たかったよ。

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osmt

4.5人の欲と愛情の果て

2023年2月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

1953年公開と、70年も前の映画ですが
今も国内外の映画人に影響を与え
長きに渡り映画ファンを魅了してきました。

溝口健二の演出
宮川一夫のキャメラワーク
そして妖艶な京マチ子

それぞれが、静かで激しく
人間とは何か、家族とは何かを
問いかけてきます。

古い映画ですが
見せる、感じさせる映画で
日本の情緒を再発見できます。

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星組

3.5日本映画の神髄。

2022年11月4日
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鑑賞方法:DVD/BD

まさに女の怪異である。
ゴダールはこれらの溝口作品を見て、彼の芸術的遺産を受け継いだ。
溝口の演出とモノクロのカメラワークの傑作である。
私の母国の映画であり、日本映画では『七人の侍』以上に好きな作品です。
主演の京マチ子は完璧で、天上界の妖精のような美しさです。

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茂輝

4.5田中絹代に出会い直すことができた

2022年5月12日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

この映画で私は初めて田中絹代さんを発見しました。今まで色々な監督の映画で見てきた女優さんです。山田五十鈴や京マチ子のような美女タイプではなく小柄で可愛らしいが、立派過ぎる台詞を言わされてる感じも強く、正直、あまりよくわからない女優さんでした。

そしてこの「雨月物語」で田中絹代に出会い直した。田中絹代は聖女で、清らかで優しくあたたかく限りなく優しい。すべてを包み込んでくれる。共に居るだけで自分も清められるようなそういう存在でした。何かあるとすぐに子どもを抱きかかえるその速さ。夫を慈しむ思いと言葉。夫の源十郎(森雅之)が家に戻ると誰も居ない。が、ふと見ると火のついた囲炉裏端に妻の宮木(田中絹代)が座り家事をしながら夫を待っていた。向こうには息子が眠っている。息子を抱きながら眠る源十郎。この世に居なくてもそういう想いで夫と息子をあの世から見守っている宮木。本当にあり得るんだと思わせる優しさとあたたかさを醸し出す田中絹代の演技は心から素晴らしいと思った。涙が出た。

都に向かう船のシーンは幻想的で、霧に包まれた湖の風景では(よくわかってないけれど)旅に出るオイディプスの神話を思い浮かべた。若狭(京マチ子)が住まう朽木屋敷は能舞台のような雰囲気で、若狭が纏うのも能の衣装、歩き方も能、化粧も能の面。その高貴な娘の顔が源十郎に正体を知られたことで恐ろしいような様相になるが鬼にはならない。ひたすら悲しい。オープニング・クレジットから能の鳴り物が響き、朽木屋敷では能管と謡曲が聞こえる。死者と生きている者が出会う能舞台。それがこの映画で自然に描かれている。

金や出世を求める男たち、愛する人と共に静かに生きていきたい女たち。この映画の女性に溝口監督はもう男性を告発させない。なぜなら女たちー若狭も宮木もーは既に死んでしまっているから。ローカルな日本の能の幽玄や死者への思いが、普遍的なものとして理解され感動を与えることができた希有な邦画、素晴らしい映画だと思う。

おまけ
京マチ子は29歳!には見えない大人で凄みのある絶品の演技。田中絹代は44歳!には見えない健気で包み込むあたたかさ溢れる絶品の演技。森雅之に内野聖陽は似てる。

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talisman

4.0ジャポニズム、そして戦後の鎮魂

2022年3月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

知的

映像に酔いしれる。

姫の、妖艶でいながら、ふとした拍子のあどけなさ。恋する乙女と、恋に縋りつく女の表情。そして怖さ、裏切られたことを知った時の切なさ。

右近の、慎み深さ。それでいて有無を言わさぬ押しの強さ。思いを遂げられないことを知った時の無念さ。

この二人が、滑っているかのように、土を踏んで歩いていないかのように、動く。
この二人が動くほどに、光と影が姿を変える。
生活感など、微塵も匂わせない佇まい。けれど、そこに”思念”ははっきりと伝わる。

息が白く見えるのでさえ、演出かと思ってしまうような幽玄の世界。

屋敷の調度とともに、ため息が出る。

田舎の鄙びた風景。基本、同じことの繰り返しが続く静的な日々。-雑兵さえ来なければ。

都会のエネルギッシュでダイナミックさ。-そのすぐそばにある落とし穴。

屋敷の、雅やかなものを愛でつつの、姫たちの心づくし、完璧な世界。-見失う現実。

その、田舎と、都会・屋敷を繋ぐ、びわ湖の、セット丸出しなのに、あの怖さ・不気味さ。

もう、これだけでお腹がいっぱいになる。

原作は、学校で名前だけは習う、読み継がれている江戸時代の作品・『雨月物語』の中からの脚色。

漫画とか、いろいろな媒体で脚色される『浅茅が宿』。
 『木綿のハンカチーフ』にも通じる、都会の色に染まって勘違いした男が、都会にすべてを絞りとられて、故郷に帰ったら…という脚色の方が好き。

『蛇性の婬』は未読だけれど、『白蛇伝』の方が好き。
 これまたいろいろな媒体で表現される『安珍清姫』『耳なし芳一』『牡丹灯篭』の方が壮絶。
 この映画では、姫と右近も、男も、ちょっと中途半端。
 正体がばれた時の演出は必見だけれども。

原作は、もっとシンプルな、どんな時代にも通ずる人間の業ーあさはかさや切なさーがあぶりだされるような、胸を締め付けられるような話。だからこそ、江戸時代の作品なのに、いまだに読み継がれる名作。

その二本をまとめた話に加えて、オリジナルの、もう一組の夫婦を描く。

夫の役目って何なのか。
 立身出世や金儲けをして、妻や子に良い暮らしを与えること?
 家族の安全を守ること?
 こんな問いかけも、この映画は訴えてくる。

 ちょっと、説教臭くなってしまった。
 というか、全部戦さのせいになってしまった。

落ち武者や、雑兵のすさまじさよ。
彼らが傍若無人にふるまわなかったら、女たちの運命も違っただろうにと思わされるような筋。

「つわものどもが夢のあと」的な無常観を描きたかったのか。

豊臣が天下を取るまではまだこの地は戦乱に巻き込まれるだろうに、映画は、霊魂に見守られながら、平和な日常で終わる。
日本昔話的に収めたかったのか。

1950年代に制作された映画。まだ戦争の記憶も生々しいころ。
 終戦直後は、家を焼かれ、家族を失い、生きるために、映画の落ち武者や雑兵のようなことをする輩もいたと聞く。
 そんな時代を生きた人々への鎮魂のように見えてしまった。

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とみいじょん