「“緯度0”とは何なのか?」緯度0大作戦 syu32さんの映画レビュー(感想・評価)
“緯度0”とは何なのか?
DVDで2回目の鑑賞。
Amazonで偶然、本作の「コレクターズ・ボックス」なるものを発見しました。本編の3つのバージョンがセットになっていました。こんな商品があったなんて、全く知りませんでした。特撮ファンとして一生の不覚!(笑)
現在東宝より単品発売されている日本公開バージョンの他に、海外で公開されたバージョン(「LATITUDE ZERO」)、そして「東宝チャンピオンまつり」で公開された短縮版(「海底大戦争‐緯度0大作戦‐」)が収録されていました。
というわけで、それぞれを観比べてみました!
・緯度0大作戦
本多猪四郎監督と円谷英二特技監督の最後のタッグ作。
日米合作のSF映画として企画され、資金をアメリカのプロダクションが全額出資し、キャストにも「第三の男」のジョセフ・コットンなどのハリウッドで活躍している俳優を招いた超大作になる予定でした。ところが、そのプロダクションが製作開始前に突然倒産してしまいました。東宝が製作費を全額出すことで何とか撮影に漕ぎ着けることが出来ました。
宝田明や岡田真澄など、英語が達者な日本人俳優がキャスティングされ、全編セリフは英語(一部日本語)で撮影されました。ですが、この日本公開バージョンは、日本人俳優は自身で、外国人俳優は声優による吹替版で公開されました。
現場の混乱が影響しているのか、信じられないくらいに特撮のレベルが低い…。そもそもα号と黒鮫号の対決がメインですが、レーザー砲や魚雷をバカバカ撃って来る黒鮫号に対して、α号は単なる調査船ですから攻撃装備を持っていないので、光線の応酬なんて場面は無く、黒鮫号に執拗に追い掛けられるα号が、ひたすら逃げ惑うだけ…。α号や黒鮫号のデザインはカッコいいし、クライマックスのα号飛行シーンなんかひたすら見惚れましたが、もうちょっと戦って欲しかったなぁ、と…。でも、α号に武器が搭載されていたとしたら、“緯度0”の主義には反するんだろうなとも思いました(笑)
それから、着ぐるみのクォリティーの低さがハンパない…。コウモリ人間、大ネズミ、グリホン―着ぐるみ感丸出しだし、何よりダサい…。初鑑賞のときには思わず「なんじゃこりゃ!」と叫んでしまいました。コウモリ人間は目玉がスーツアクターのものだし、まるで急造したアトラクション用スーツのようで…。大ネズミはちょろっとだけの登場でしたが、なんも言えねぇ…。グリホンも元になるライオンの出来がイマイチなので、全体的にチープ感が否めませんでした。
翻って、冒頭の海底火山噴火やクライマックスのブラッドロック島の最期は、円谷特撮の醍醐味を味わえる名シーンになっているだけに、ハリウッド俳優のギャラで製作費の殆どを持っていかれたのではないだろうかと勘繰りたくなりました…。
それにしても、「世にも奇妙な物語」的なラストシーンには息を呑みました。「ここでそんな感じのヤツを持って来るんかい!」みたいな…(笑) まさに現代の寓話…。結局、“緯度0”とはいったい何だったのか…? 夢? 幻? 天国? 異次元? それとも…? ―興味は尽きません(笑)
・LATITUDE ZERO
日本版より少し長い105分の上映時間でした。
メジャー映画会社が製作に参加していないため、アメリカではインディペンデント映画扱いになりました。小さな劇場でひっそりと公開されたようです。ヒットしたかは不明…。
字幕版なので、宝田明を初めとする日本人キャストの英語ゼリフを聴くことが出来ました。とても流暢で舌を巻きました。
ドラマ部分で細かなシーンの追加がありました。緯度0に到着してからの食事シーンなど、本筋には関わって来ない場面ばかりでした。特撮シーンの追加は無く、少々物足りない感じでした。効果音などの変更もありませんでした。
“黒い蛾”が、“ブラック・モス”ではなく、英語でもそのまま“クロイガ”と呼ばれているのには驚きました。クロイガ!(笑) 逆に、「はい艦長!」は日本語のままでした。「イエッサー!」ぐらい言えたやろうに…(笑)
・海底大戦争‐緯度0大作戦‐
「東宝チャンピオンまつり」の一環でリバイバル上映されたバージョン。オリジナル版から上映尺に合うようにシーンをカットした短縮改訂版です。どこがカットされているかとかを細かく書いても仕方が無いので、特に書くことはありません(笑)
…という具合に、3つのバージョンのレビューを書きましたが、本作が特撮史上に燦然と輝く“珍作”であるという認識を新たにしました。それでも異色作であることに変わりは無く、観れば観るほど味が出て来るのもまた事実…。不思議な魅力を持ったカルト的作品だなと思いました。