「深作欣二が撮った「仁義ある戦い」」赤穂城断絶 盟吉津堂さんの映画レビュー(感想・評価)
深作欣二が撮った「仁義ある戦い」
時代劇大好きなのだけれど忠臣蔵にはそんなに詳しくない。
元となった赤穂事件が詳細不明の部分が多い上に後世の創作がたくさん入っているのでどうも物語に没入しづらいのだ。
実際Wikipediaで「赤穂事件」や「忠臣蔵」の項目を読むと、我々が現在知っている忠臣蔵のドラマチックな場面のかなりの部分が後世の創作だと指摘されている。
もちろん時代劇なんて所詮は作り話だというのは百も承知なのだけれど、史実を元にしていると言われるとやっぱり心のどこかで「多少は脚色しているにしてもだいたい本当に起こったことなんだろうな」と思ってしまうのが人情というものであり、あの場面は全くの創作でそんな事実は一切なかった、とか言われるとちょっとがっかりしてしまう。
とは言え、四十七人のサムライたちが一時の激情ではなく一年以上も潜伏した上で討ち入りをやり遂げたというのは紛れもない事実である。
それぞれに様々な思惑があったにせよ、よしんば成功したとしても十中八九死罪になることを覚悟した上での決行であり、事実、寺坂吉右衛門以外の四十六人は切腹して果てた。
この巨大な事実がある限り、これから先も忠臣蔵は様々な創作を懐深く抱え込みながら日本人に愛されていくのだろう。
さて、深作版忠臣蔵『赤穂城断絶』である。
『仁義なき戦い』シリーズを大ヒットさせて脂の乗り切った時期の深作監督だけに演出もキレが良く、物語はスピーディーに進んでいく。
忠臣蔵はとにかく登場人物が多くてゴチャゴチャと長ったらしいのであるが、そこは『仁義なき戦い』で広島ヤクザの群像劇を見事にまとめ上げた深作欣二である。
一癖も二癖もありそうな登場人物たちに焦点を絞ったドキュメンタリータッチの粗っぽい演出で159分の長尺ながら緊迫感はほとんど途切れることはない。
山守組長そっくりの憎めない小物感が漂う吉良上野介(金子信雄)、小心者で計算高くてこれまた憎めない関西弁の赤穂藩末席家老大野九郎兵衛(藤岡琢也)、アイパッチ以外は柳生十兵衛と見分けがつかない剣の達人不破数右衛門(千葉真一)、討ち入りしたくてウズウズしてる熱血漢の堀部安兵衛(峰岸徹)、美しい妻(原田美枝子)に身売りをさせて堕落していく橋本平左衛門(近藤正臣)、討ち入りの乱闘の中で赤穂浪士よりも大立ち回りをして目立ってしまう吉良方の剣客小林平八郎(渡瀬恒彦)、コンピュータのように冷徹極まりない幕府の用人柳沢吉保(丹波哲郎)など、いずれもアクの強いキャラクターが深作群像劇を盛り上げている。
たが惜しむらくは主役の大石内蔵助を演じる萬屋錦之介だけが正統派歌舞伎調の芝居がかった古めかしい演技をして実録調の深作演出から浮いてしまったことである。
『柳生一族の陰謀』のときはその歌舞伎調の演技が幕府の中枢で暗躍する老獪な陰謀家にふさわしい重厚感を出していたのだが、今回はその古めかしさが裏目に出て、ドキュメンタリータッチのざらついた映画の中に一人だけ美談のお芝居の登場人物が混じっているようなチグハグな感じになってしまった。
考えてみれば『柳生一族の陰謀』はまさに時代劇版『仁義なき戦い』だった。
社会の裏側で暗闘する男たちを描かせたら右に出るものはない深作欣二も、忠臣蔵という正々堂々とした「仁義ある戦い」はいささか持て余したようだ。
Wikipediaによれば本作の撮影中、深作欣二と萬屋錦之介は忠臣蔵に対する見解の相違でずっと対立してたそうである。
興行収入も『柳生一族の陰謀』の半分にも満たなかったそうだが、だからと言ってこの映画が駄作というわけではない。
ここには正統派美談調の忠臣蔵ではあまり描かれない、汗と血の匂いが漂ってくるような泥臭く血腥い男たちのドラマがある。
時代劇研究家の春日太一氏は「時代劇入門」という著書の中で忠臣蔵映画の入門編として1956年に東映が作った『赤穂浪士 天の巻・地の巻』と、1985年に日本テレビが里見浩太朗主演で作った年末時代劇スペシャル『忠臣蔵』を必見の2本として挙げているが、自分は異色作としてこの『赤穂城断絶』もその中に加えていいのではと思っている。
好き嫌いが分かれる作品ではあるが、忠臣蔵が好き、あるいは忠臣蔵に興味があるという人は観ておいて損は無い力作である。
あくまでも「忠臣蔵が好き、あるいは忠臣蔵に興味がある人」に限るけれど(笑)。
共感&コメントありがとうございます😊
さて深作欣二監督の「赤穂城断絶」‼️やはり錦之助さんの演技は大時代的ですね‼️特に今作と「柳生一族の陰謀」は周りが深作組というか、ヤクザ映画の俳優さんばかりだから尚更ですね‼️「宮本武蔵」五部作の時はそんな感じなかったんですが・・・。