「正義と科学が結びついた業の果てしなさ」AKIRA えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
正義と科学が結びついた業の果てしなさ
第三次世界大戦後、荒廃したネオ東京を舞台に、新しい人類の進化を統治に利用しようとする軍部の極秘研究に、不良少年のカネダとテツオがたまたま巻き込まれてしまう物語。
本作を数十年ぶりに観たが、その完成度やメッセージの多層性と深耕度合い、驚異的な映像美など、とにかく度肝を抜かれた。映画評を言葉で記録するという行為(つまりこのブログ)自体が無粋と自認していたものの、ここ数年で最もそれを強く感じてしまった作品。
本作の劇場公開が1988年ということを鑑みると、アニメーションに限らず、後の映画製作全体与えた影響は計り知れない。例えば本編ではたった数秒たらずのカナダのバイクシーンでさえ、そのオマージュをYouTubeで検索すると、わんさか出てくる。本作に影響を受けたと公言する世界的映画監督はゴマンといて、さながら音楽界のビートルズ、バスケット界のマイケル・ジョーダンのような存在である。
言葉で感想を書き連ねることが無粋であり、加えて、もはや論評し尽くされた名作である点を承知で敢えてひとつ、本作で興味深かった点を記録しておくとすれば、正義と科学が結びついた業の果てしなさ、であろう。
人類の歴史はそのまま暴力の歴史と言って良いくらい、地球上には争いが満ちている。時代を経るごとにその数自体は減っているが、なくなることはない。暴力といえど、そこにはそれぞれに守るべき正義があって、正義の名のもとに暴力は正当化される。科学は良きにせよ悪しきにせよ、正義の庇護のもとで暴力を増大させる方法を編み出し発展し、それによって正義がまた肥大化するという永久機関のような、戦争のメカニズムたる共犯関係が生まれる。AKIRAとは、そうした暴力と科学の業の名前であり、本作はその業を終わらせる、また別な観念の現出を描いた作品である。