「火の出るような猛烈な勢いの愛がこもった彼女の演技が、監督の演出と互いに反射しあって本作を傑作にしています」秋津温泉 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
火の出るような猛烈な勢いの愛がこもった彼女の演技が、監督の演出と互いに反射しあって本作を傑作にしています
岡田茉莉子、吉田喜重共に29歳独身
岡田から監督への持ち込み企画で、100作記念作品として彼女がどうしても吉田監督に撮らせたかったとのこと
そしてこの二人は本作公開の翌々年1964年に結婚しています
映像は大変に美しい
岡田茉莉子を如何に美しく撮るかがテーマになっていますが、若干くどいです
岡山県奥津温泉でのロケも大変に美しい、ワイドカラーが活かされています
音楽は重厚で素晴らしいものばかりです
しかし大袈裟に過ぎて邪魔に感じることが多いです
そのかわり効果音が渓谷の秋津温泉の静けさと津山や東京の喧騒との対比を上手く強調しています
原作は1947年発表の小説
17歳から34歳の17年間の結ばれない愛を描きます
物語の内容が岡田茉莉子の心と激しく共振したのだと思います
10年経ってしまったわ
(中略)
私、何にもしなかった
何にも考えないで、何にもしないで
あっという間に10年経ったのよ
そうじゃないわ
きっと色んな事があったのよ
あたしだって一生懸命だった
(中略)
あなたがここにいない間、私何していたと思う
じっと待って、待って待ちくたびれて・・・
(後略)
この台詞は岡田茉莉子本人の女優としての本心をそのまま語った言葉のように思われてハッとなりました
つまり、本作は形を変えた岡田茉莉子から吉田喜重への熱烈なラブレターであったように感じられてなりません
終盤は、岡田茉莉子が演じる新子が34歳になって抜け殻のように生きているシーンとなります
いつまでもあなたを待ち続けます
でも、私はこうなってしまうに違いありません
そしてクライマックス
あなたへのこの愛が成就しないのなら、自分は女優を引退する決意なのです
そう迫っているように思われてなりません
果たしてラストシーンで周作は、初めて彼女への愛と真剣に向かい合うのです
この火の出るような猛烈な勢いの愛がこもった彼女の演技が、監督の演出と互いに反射しあっているのです
それが終盤に、強烈な緊張感をもたらしているとおもいます
多少くどさはあっても、素晴らしい傑作だと思います