「東京で一人生きる辛さ」秋立ちぬ 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
東京で一人生きる辛さ
クリックして本文を読む
映画のクレジット的には一応主演は乙羽信子なのだが、映画が始まって暫く経ってしまうと居なくなってしまう。
実質的な主役は、乙羽信子の息子役である大澤健三郎であり、田舎から東京に出て来た彼が一夏で経験する東京での生活振りや、知り合いになる女の子との友達関係。及び、大人達の自分に対する接し方を通じて少しずつ大人になって行く話です。
長野県の山奥から出て来ただけに、「青い海が見て見てえずら!」と絶えず口にする彼。
東京にはカブトムシが居ないと嘆き、なかなか会えない母親との関係。母親の兄夫婦の家に居候をしているだけに、片見の狭い思いに心を痛める。
監督成瀬巳喜男は、今回製作も兼ねており、女性の立場から男に媚びない性格で居ながら、結局男に頼らざるを得ない女性像を描く事が多かったが、この映画ではそのエピソードは中盤から居なくなる母親の話で少し描かれるだけで、メインとなるのは子供が東京とゆう都会で感じる社会の厳しさであるのは、成瀬作品にとっては珍しいところでしょうか。
デパートの屋上からは小さくしか見えなかった海。やっと海に辿り着いたものの、そこにあった海は“青”くは無く“黒く澱んだ”海であったのが、この主人公の少年の今置かれた立場を描いている様でもありました。
最後には独りぼっちになってしまい、再びデパートの屋上から海を眺める。そんな悲しいエンディングですが、成瀬作品特有の突き放し振りには、監督からの「頑張れよ!」との激励にも感じました。
コメントする