劇場公開日 2025年3月21日

「当時の実写映画の映画文法から離れて、アニメーションと実写の架け橋、化学反応を目撃する大いなる実験のようで実に新鮮でした。」紅い眼鏡 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0当時の実写映画の映画文法から離れて、アニメーションと実写の架け橋、化学反応を目撃する大いなる実験のようで実に新鮮でした。

2025年3月23日
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鑑賞方法:映画館

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押井守監督の実写デビュー作『紅い眼鏡』。
昨年の4Kデジタルリマスター化のクラウドファンディングに参加、すでにリターンのブルーレイディスク(4K UHC/特製スチールブック)を入手しておりますが、当時ロケ地としても使用された《聖地》キネカ大森での上映が決定したとのことで辛抱たまらず劇場へ。

『紅い眼鏡/The Red Spectacles』(1987/120分)
当時の記憶としてはTVアニメ版『うる星やつら』にて監督自身がモチーフになったと言われる、TV版で脇からメインキャラに大出世した「ラム親衛隊」のリーダー・メガネ(声:千葉繁氏)がシリーズの肝になる回(第87話「さよならの季節」、第128回「スクランブル!ラムを奪回せよ‼」、第129話「死闘!あたるVS面堂軍団‼」)で着用するお手製「重モビルスーツ」にフォーカスした千葉氏主演のスピンアウト実写短編と思っておりました。

しかし完成した本作は想像を遥かに超えた作品で正直驚きました。

まず出渕裕氏デザインの黒ずくめプロテクトギアはドイツ軍のシュタールヘルム型ヘルメットとガスマスク、全身を覆う装甲版と赤いモノアイに『機動戦士ガンダム』第1話でのザクⅡ登場以上の期待感と高揚感を感じましたね。

脚本も押井監督と伊藤和典氏の黄金コンビ。
近未来の警察組織「対凶悪犯罪特殊武装機動特捜班」を創作し、世界観を一気に拡大、のちにケルベロス・サーガとして『ケルベロス⁻地獄の番犬』(1991)、『人狼 JIN-ROH』(2000)、さらに海を渡って韓国でリメイクまでされるとは当時は思いもかけなかったです。

キャスト陣も芸達者でスタントマン経験もある千葉繁氏をはじめ声優業以外でも舞台やドラマ経験豊富な鷲尾真知子氏、田中秀幸氏、玄田哲章氏、さらに岡本喜八組常連の天本英世氏(月見の銀二役)と豪華布陣が、「うる星やつら」アニメーション同様のディフォルメされた演技を披露。
当時の実写映画の映画文法から離れて、アニメーションと実写の架け橋、化学反応を目撃する大いなる実験のようで実に新鮮でした。
特に赤い頭巾の少女を演じた兵藤まこ氏は『天使のたまご』(1985)でも抜擢、監督自身もゴダールとアンナ・カリーナのような関係と語るように監督のミューズなのでしょう、本作品でもミステリアスで魅力的でしたね。

ストーリーもTV版『うる星やつら』で押井監督が新たに生み出した「プロの立食い師」や『うる星やつら2 ビューティー・ドリーマー』(1984)での永遠に終わらない日常と繰り返させる夢、竜宮城へ誘うタクシーなど、思わずニヤリでした。

今回4Kデジタルリマスターで生まれ変わりましたが、より画質がシャープで黒が引き立ち、暗闇に浮かぶモノアイの赤(紅)が綺麗でしたね。

川井憲次氏音楽、特にすっかりポピュラーになったテーマ曲は5.1chになってさらに神々しくなりました。

キネカ大森さんの劇場装飾も素晴らしく、ぜひ劇場で体感して欲しい作品ですね。

矢萩久登