劇場公開日 1966年9月17日

「原爆の悲惨さを扱った映画の最高峰のひとつだと思います そしてまた本作は、吉永小百合、渡哲也の日本を代表する大スターの悲恋物語のスタート地点でもあったのです」愛と死の記録 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0原爆の悲惨さを扱った映画の最高峰のひとつだと思います そしてまた本作は、吉永小百合、渡哲也の日本を代表する大スターの悲恋物語のスタート地点でもあったのです

2020年10月22日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

吉永小百合の主演映画で、良く似た題名の作品が有ります
1964年の作品「愛と死を見つめて」と、1966年の「愛と死の記録」です
有名なのは前者の作品ですが、本作は後者の方です

前者の作品では吉永小百合が不治の病になり、相手役の浜田光夫との文通と長距離電話での励ましの末に死別するという悲恋の物語

本作は、相手役の渡哲也が不治の病になり、吉永小百合が献身的な看病をするという内容で外形は似ていると言えば似ています

ですから、その前者の第二弾というか、何か二番煎じのような適当に作られた映画の様に思う人がいるかも知れません

全く違います

本作の方が圧倒的に優れており、感動して心を揺さぶられることと思います

本作の英語題名「The Heart Of Hiroshima」の方が遥かに本作の内容を的確に表しています

吉永小百合の演技を心から素晴らしいと絶賛出来る映画だと思います

終盤の「幸夫!」と叫ぶシーンの感動は彼女のベストアクトだと思います
今日に至るまで彼女のこれを超える演技は無いと思います

原爆の悲惨さを扱った映画の最高峰のひとつだと思います

幸夫が彼女を遠ざけていた理由を打ち明けようとする時、その背景に見える石碑は峠三吉詩碑です
その碑文が画面で読めるように撮影されていますから、是非読んで下さい
原爆ドームの内部に入るはその次のシーンです

そして、吉永小百合が「幸夫!」と絶叫する時に見上げる黒い人型の像は原爆の子の像です

ヒロインの和江が住む家は原爆スラムにあります
あの2007年の映画「夕凪の街 桜の国」のあの場所です
彼女の家に向かう救急車が走る大通りの向こう側に見える大きな高床式のビルは広島平和記念資料館本館です
「資料館の中を見たか?(中略)どんなに恐ろしいことか、放射能がどんなものか君には分からん!」
そう幸夫が和江に話した建物です

この物語だけで十分に傑作で星5つです
撮影、照明、脚本、演出も、配役、脇役陣の演技もみな優れており見応えがあります

しかし本作にはその映画自体の価値を超えた伝説が秘められています

本作はいつも通り相手役を浜田光男を予定していたそうです
しかし彼が不慮の怪我で出演できなくなり、初めて渡哲也が彼女の相手役となったのです

渡哲也25歳、吉永小百合22歳
撮影中に誰が見ても二人は相思相愛の仲になったといいます
1966年8月の1ヵ月間の広島ロケ
しかもこのような魂を震わせる原爆の悲惨な物語を現地で演じることは、若い男女を深く結びつけてしまうことは当然かも知れません

本作の二人には演技や演出を超えた、男女のケミストリーが立ちのぼっているのが分かります
それが迫真さになっているのです

この後、この二人は白鳥、青春の海と共演が続き、2年半程付き合い結婚をしようという所まで行ったのです

しかし、吉永小百合の父の猛反対
渡哲也の両親が彼女に専業主婦になって欲しいとの意向が障害となりました

こんな吉永小百合の肉声を伝える記事が有りました
「両親を説得できなかったんです。だから(渡哲也に)直接会って、『あなたとは結婚できません』と伝えました。涙が止まりませんでした。それで別れたんです」

引き離された恋ほど深くなるものはありません
その後渡哲也が一般女性と結婚してしまうと、彼女は泣き通して、ついには離婚歴のある20も歳上のテレビ局の男性と突然結婚してしまうのです

しかしそれで終わるような生易しい恋ではなかったのです
本作の、カットされてしまったという、原爆ドームでのラブシーンのことを、彼女は後に自著のエッセイに切々と綴り、その幻のシーンの写真を大きく載せるなど、渡哲也との愛が始まった本作をいつまでも大切な思い出としていたのです

彼女が原爆の読み語りをするようになるのも、本作の深い思い出が、反原爆への思いと分かちがたく結びついているのだと思います

そして、この二人がふたたび共演を果たすことになるのは 1998年の「時雨の記」まで有りません
二人が別れてから30年も後の事です

この映画は吉永小百が長年暖めてきた持ち込み企画といいます
そしてその内容は熟年男女の不倫の物語なのです

本作はそのような、吉永小百合、渡哲也の日本を代表する大スターの悲恋物語のスタート地点でもあったのです

そのようなことも頭に入れて本作を観れば、感動もより大きなものになり、感慨も深くなるとことと思います

傑作中の傑作です

あき240