劇場公開日 1966年9月17日

「観念的台詞の感情の葛藤から生まれた、朗読劇の真剣さ」愛と死の記録 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5観念的台詞の感情の葛藤から生まれた、朗読劇の真剣さ

2020年6月11日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

日活青春ロマン作品とは一線を画す、原爆後遺症の苦しみを真正面から描いた力作。主人公和江と幸雄が、お互いの友人の策略で再会して交際が始まるプロローグがいい。日常の些細な出来事から極普通の若い男女の付き合いが描かれて、主題である被爆者の青春悲劇への転調がより切実さを増す構成に、作者の誠実な制作姿勢を感じさせる。平和記念公園のロケ撮影も、舞台背景というより二人の心象風景の映像として独特なカメラアングルと前衛的なカメラワークで統一されている。観念的な台詞のやり取りで男女の感情を交差させる、広島を舞台にした朗読劇の趣があって、映画の世界に引き込まれる。
吉永小百合、渡哲也共に好演。芦川いづみの二回目の登場シーンが無言ながら、映画としては雄弁な表現。幸雄の主治医に対のバンビの置物が贈られるシーンも、和江の心理を難なく想像させる。それはまた、医学の進歩に願いを託す彼女の遺言とも取れる。
蔵原惟繕監督の真摯な映画文体に魅せられる日活映画だった。タイトルバックの地上に取り残された二羽の鳩は、何故飛び立とうとしなかったのか。広島の地に止まる鳩が、いつまでも平和への願いの象徴でありますように。

Gustav