「緻密ではないが心に訴えるシーンのある映画」犯人に告ぐ keebirdzさんの映画レビュー(感想・評価)
緻密ではないが心に訴えるシーンのある映画
この映画、端的には自分で意外なくらい好きなんですが、複雑な感想が湧くので整理すると‥
・主演なので当たり前と言えばそうだが、この映画を一作品たらしめているのは殆どトヨエツの演技と雰囲気醸し出しの成果。素人ごときが映画制作という協働事業の評価を役者一人に帰すなんて僭越だけど、そう思えてしまうのは本当だから仕方ない。特に彼の無言のカットでの締まった雰囲気出しは、この映画各部のダレや散らかしをなんとか抑えている。
・上述の映画全体の不備は、殆どが纏まり不足の脚本、一部ん?のキャスティング・演出、時々舞台劇のように動かなくなり全体が暗い撮影といった、これもまた僭越だけれど、私が頻繁に感じる日本映画の宿痾が表れている。三つ目の撮影に関して、本作はトヨエツの演技の波長が画とそれなり合っているのでかなりマシに感じたけど。
・ストーリー的には狙いの犯人の捜査部分以外が多く、結果的にちょっと蛇足、冗長が感じられるけれど、各役者さんは夫々のシーンで頑張っているので、脚本や演出の取捨と繋ぎが良ければ無駄に感じることはないのではと思う。
・上記から、夢想甚だしいけど、本作がハリウッドが中型作品並みの資金とスタッフ、特に脚本や撮影が上質でトヨエツが無理なく演技できる(ここ大切)設定であったら、相当ハードで面白い映画になったりして、と思ったりする。好きなんで。
・文句を長々色々言ってもやはり結構好きなのは、主演の頑張りと映画の雰囲気、そしてこの三つ;
- 主役が前半の記者会見で私事の一大事(←結局大丈夫だった)と失敗の自責感、上司、マスコミの各圧力にキレて訳分からんことを叫んで逃げるシーン
これ、お人好しの社会人を無理にやってると、こんな感情暴発誰でも一回くらいあるよね〜と物凄くリアルに感じてしまい‥。
- BAD MANを追い詰め、「犯人に告ぐ‥」「‥今夜は、震えて眠れ」のシーン
凶悪な事件、不条理への憤り、観る者にとっての映画進行そのものへのモヤモヤも全てこのシーンで収斂、収束する。素直に爽快でカッコいい。
- エンディング、明るい光の中で主役刑事がのんびりするシーン
これが余計だとか意味分からんとのご意見もあるようですが、私は上述一つ目のシーンからの感慨もあり、主役と共に何か少し救われた気分がした。光をとりわけ取り入れた演出を評価したい。
この三点があるからか、刑事物のお話、映画としてはそれほど名作とは認識していないのに何故か時々再見したくなる。再映や配信機会が乏しいのが残念。それと、刑事物やサスペンス邦画の制作、脚本、もっと頑張ってほしいす。