「↑彷徨ってはいませんよ。人気の原作をベースに年一本の出世魚作品へ期待できそう。」築地魚河岸三代目 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
↑彷徨ってはいませんよ。人気の原作をベースに年一本の出世魚作品へ期待できそう。
連載開始時より愛読していただけに、原作と違うところは気になってしまいます。さの突っ込みはあとにして、映画として無難にまとめて、笑いあり涙ありの人情ものとして無難にまとまっています。寅さんから見続けていた松竹映画のファンとしては、伝統に沿った作りの映画で、台詞回しも寅さんに似ているところがあり、懐かしさを誘われるシーンが多々ありました。
逆に寅さんを知らない、特に普段は洋画ばっかり見ている人には、古くさい作品に見えるかも知れません。まぁ、それでも通常の試写会より活況があったのは、この手の企画がやはり日本人の琴線に触れるところがあるからだろうと思います。
但し松竹ファンから見れば、ベテランの松原監督が引き出す役者の自然な表情はいいとして、人情ドラマのとしてのどこかで感情が爆発するインパクトが弱かったと思います。
ぶつかり合いとしては、寅さんが激しかったし、爆笑という点では、釣りバカのほうが数段面白いです。この作品の無難さが返って印象を弱くしているのではないでしょうか。 シリーズ化に向けて、荒っぽい平井雅を寅さん役に仕立てて暴れさせるとか、もう少し個性を打ち出して欲しいところです。原作では魚のうんちくばかりでなく、水産資源の保護と畜養、そして魚河岸の未来を開くために旬太郎が活躍します。結構環境問題も考えさせるテーマを含んでいますので、その辺をきちんと描いて欲しいと思います。
それでも旬太郎の食いしんぼぶりは、大沢たかおがよく演じていました。サラリーマンの時と、魚河岸にいるときと、魚を食べているときの顔が全然違います。彼自身結構食いんしぼなんではないでしょうか。それにしても続々登場する魚料理は、予想していたけれど参りましたね。なんと言っても、夕食時間に見ていたので、お腹がぐぅ~と鳴りましたよ。
加えて旬太郎が無謀なリストラに怒るときの正義感も凛々しかったです。アレがあるから、旬太郎が突如会社を辞めて魚河岸に飛び込んだのも説得できました。元上司の尊敬している社員を断腸の思いで退職に追い込んだあと、転居先の長野を旬太郎が見舞うところは泣けましたね。元上司と別れたあとの列車のなかで号泣するところなんぞ、旬太郎の人情味のあるところを好演していたと思います。
また英二の思いを寄せる相手の結婚を阻止すべく、市場構内専用の荷台車を公道で激走させるところは、山場としてスリルまで出ていて良かったです。
不満なのが英二の設定。原作では元板前。割烹「天海」で料理・包丁の腕を磨いていたが、酔客とトラブルを起こし、店を追い出されて『魚辰』で働くことになったとされています。だから河岸でも抜群に目利きが立ち、料理の腕とも一流で魚辰の大黒柱となっているのです。2代目の隠し子でぐれて不良になったというアウトローじゃあなんいんですね。英二は魚河岸に隠棲している超一流の料理人でなければならないのです。彼がいるから旬太郎も三代目として商品知識を身につけ、短期間で成長できたのです。
また、英二が明日香と結婚したがっている勘違いについても、引っ張りすぎです。
雅がエリに惚れていることですら、本人たちの告白よりも、周りが感づいてウワサしているような情報と洞察が早い築地のことですから、英二が明日香でなく、千秋に惚れていることくらい、すでにウワサになっていなくてはおかしいですよ。ちょっとシナリオ上のご都合主義が気になりました。
明日香は売れっ子の田中麗奈が演じています。その前に『山桜』を見ていたため、どうしても野江が魚河岸にいるような気になってしまい馴染めませんでした。「犬と私の10の約束」のあかり役とは一転して、気に強い江戸っ子娘を演じていて、それなりに説得力はありました。原作のイメージからすると、もう少し丸くふっくらしていて、優しい人なんで、感じとしては、宮崎あおいの方が本来の明日香に似合っていると思います。
荒川良々が演じる拓也役はぴったりのはまり役でしたね。
大旦那の伊東四朗や、その碁敵の寿司屋の亭主(とりで寿司ではない)に柄本明などヒトクセあるベテランがしっかり脇を固めて、笑いと人情をショウアップさせてくれました。
原作では欠かせないバイプレーヤーであるハイエナ先生や共新ストアーの鮮魚担当横山さんが登場しなかったことが残念です。
それにしても巨大なオープンセットに魚並べて魚河岸を作ってしまったのはすごいです。監修したプロの仲卸がここで商売できると太鼓判を押したほど。さらに築地の全面バックアップで多忙な市場のナマシーンも入っていて臨場感はたっぷりでした。どこまでがオープンセットか全然判定つきません。
こうして第1作はスタートしました。年一本、また来年の初夏には2作目が登場します。
大旦那が旬太郎に目利きを頼んで、三代目となることをテストしたブリ。大旦那の台詞でもブリは出世魚で、をワカシ、イナダ、ワラサ、90cm以上になって初めて一人前のブリといわれます。
そかな出世魚に例えて大きな目で旬太郎の成長を期待したように、われわれ映画ファンも『築地魚河岸三代目』が寅さんに負けないビックシリーズとなることを願って、見守ろうではありませんか。