スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師 : 映画評論・批評
2008年1月8日更新
2008年1月19日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー
ティム・バートンによる、やりたい放題のスプラッター・ホラー・ミュージカル
ジョニー・デップはやはり大した俳優だ。ソンドハイムの難しい曲を歌いこなしているだけではなく、復讐に凝り固まったスウィーニー・トッドの暗い情念が、歌となって噴出しているのだ。他の出演者もそうだが、彼らは決して歌手のようにきれいに歌っていない。歌声を響かせることより、キャラクターの感情表現を優先させている。このミュージカルではそれが正解。なにしろ、「この死体をどう始末する?」「私に任せて、パイにしてしまうわ」とか、「復讐する日まで、せいぜい(喉を切り裂く)訓練をしよう」なんて物騒な歌なんだから、朗々と歌い上げられても困ってしまう。
それにしてもよくもこれだけダークな映画にしたものだ。色彩を抜き取ったようなモノトーンの画面に死体を焼く真っ黒な煙がたちこめ、愚かなまでに陰気なスウィーニーが客の喉を切り裂き続ける。そのダークな画面に飛び散るのはもちろん真っ赤な血。喉を切ることで抑圧された彼の感情が爆発し、おびただしい量の血が降り注ぐのだ。ティム・バートンはこの感情の爆発=血しぶきをやりたかったんだろうね。R指定の心配もハリウッドの常識も吹っ飛ばして、やりたい放題スプラッター・ホラー・ミュージカルに徹している。その思いっきりの良さが、むしろ痛快だ。
(森山京子)