劇場公開日 2007年12月1日

「鼻がでかいと短気らしい・・・」ある愛の風景 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0鼻がでかいと短気らしい・・・

2018年10月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 スザンネ・ビア監督作品としては『アフターウェディング』(2006)を観たばかり。この作品はそれより前の2004年作品。どことなく2002年のドグマ映画である『しあわせな孤独』のタッチをそのまま受け継いでいて、編集は普通のものだが『アフターウェディング』と同じく意味深なカットを挿入しています。戦争というテーマもあるものの、根本的にはヒューマンドラマ。何度も感情を揺さぶられ、人間の罪深さと家族内の葛藤と信頼に涙を禁じえない・・・

 原題ともなっている“兄弟”。冒頭では兄ミカエル(ウルリク・トムセン)が銀行強盗の罪で服役していた弟ヤニックを迎えにいく。犯した罪については、PTSDを引きずっている被害者に謝罪することを勧める程度で、兄は弟を信頼し、愛していることがうかがえる。しかし、成績優秀、スポーツも得意な兄と違い、弟はコンプレックスの塊りだった。そして父親との確執。いらない子として毛嫌いされていたほどだ。

 兄は優秀な軍人。弟が出所した後、アフガニスタンの戦地へと赴く。通信兵を救助するという作戦に参加するもヘリが撃墜され、妻サラ(コニー・ニールセン)のもとに訃報が届く。飲んだくれていた弟ヤニックも目が覚め、サラや2人の娘の心の支えとなる。しかし、葬儀も済ませたミカエルは奇跡的に助かっていたのだ・・・もしや、2人の間に恋愛感情が芽生え、帰還する兄と最悪の三角関係になるのかと・・・と、ありがちなドラマにはならず。

 戦地での過酷な捕虜生活。さらに、生きるためとはいえ犯してはならぬことを強制させられた体験が彼を罪悪感の塊りにしてしまったのだ。悩めるベトナム帰還兵を扱った映画は多いけど、舞台はアフガン戦争であり、しかもデンマーク兵。正義感が人一倍強いという性格もあったし、相談できる相手もいない。完全に精神異常をきたし、家族やものに当たり散らすといった内容です。

 戦死の知らせが契機となったこともあるけど、精神的にも生活態度も立ち直った弟。対して重い十字架を背負うことになり、精神的にもマイナスに向かうこととなった兄。この2人の対照的な構図を軸に、家族のそれぞれの思いが交錯する。無邪気な娘や厳格な父、それに偏見のない愛を見せてくれるサラ。バラバラになりかけてもしっかり繋がっている家族愛を感じる作品でした。

 細かな部分では、何をしていいかわからずに遺品となるレコードの整理をする母親や、新しくなった食器棚の中を神経質そうに配置換えするミカエルなんてのが良かった。それにソファでヨダレを垂らして寝ていたヤニックもリアル・・・

cf.『マイ・ブラザー』

kossy