劇場公開日 2009年5月9日

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「音羽屋!」THE CODE 暗号 kerakutenさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0音羽屋!

2009年6月7日
鑑賞方法:映画館

興奮

萌える

尾上菊之助主演。
犬神家での佐清(すけきよ)は、悲劇のヒーローではありましたが、
実の母上と親子で、しかも母のいいなりの息子役。
罰ゲームとしか思えない気の毒なキャスティングでした。

本作では、うって変わって
頭脳明晰な暗号解読の天才、という
特殊技能をもつ探偵を演じます。
これが、今までに見たことのないような
不思議な探偵なのです。

正義のために、依頼人のために、
とかいう使命感ではなく、
解読不能な暗号は絶対にスルーできず、
もうそれを解くためには命でも何でもかけちゃいます。
私利私欲はまったく無し。
一度口にしたことは必ず守り、
いささかもぶれず、潔く、誠実。
心の奥底では情熱をたぎらせながらも
クールで冷静。

これをそこいらのあんちゃんが演ったって
絶対にボロがでること必至なのですが、
さすが 未来の人間国宝!音羽屋!
そこはもう完璧でした。
ルービックキューブを操る指使い、
数字を埋めていく速さ、
男を意識させない中性的な魅力、
深いまなざし、すっとした立ち姿・・・
どれをとっても完璧で、
この「本物」感が、
ちょっとぐだぐだなストーリーを
がっちりささえていたように思います。

歌舞伎役者の身体能力は半端じゃない、
と聞いたことがありますが、
アクションシーンでも、
多分その能力の半分も出してないんじゃないかな?
ダンスのシーンだって、
「(ダンスの経験はないが)ステップは
配列記号に似ている」なんていいながら、
本気で踊ったらうますぎるから、
半分の力で踊りました・・・って感じでした。

映画の話に戻しますが、
時代は明らかに平成っぽいのですが、
探偵事務所はなんだか古色蒼然としていて、
携帯やパソコンもあるんだけど、
なぜか通信手段ではテレックスのテープが流れます。
写真もなぜか現像してるっぽい感じ。
昔の役場の人みたいな黒い腕カバー、
エニグマ暗号機なんて、今の時代にあるんでしょうか?
でもビジュアルはなかなかいい雰囲気。
「K20ー怪人20面相伝」に近いです。

とにかく時代設定は謎です。
「K-20」では「第二次世界大戦を回避した日本」
という 架空の設定だったので問題なしですが、
旧日本軍とか、中野学校一期生とか思い切りでてくるので、
年代の計算とかはじめちゃうと、
これが矛盾だらけ。

終戦の時少年だった、探偵事務所の会長の500(宍戸錠)を70歳とすると
その憧れの人物、椎名(松方弘樹)はどうしたって80歳以上。
娘の美蘭(稲森いずみ)は若くても50歳以上となってしまいます。

でもでも・・・
劇場の空間の中で観ると、
舞台が上海という過去を未来をあわせもつような年だったからか、
あんまり細かいこと気にならなかったです。
テレビやDVDではその世界に浸れなかったかも・・・。

日本映画で、出演者も日本人がほとんどなのに、
上海ではちゃんと台詞が中国語!
というのもポイント高いと思います。
うまいヘタはともかく、その心意気はとっても偉い。

なんといってもこの映画の「目玉」は
松方弘樹と宍戸錠の「決闘シーン」です。
スペードのA→エースのジョー→宍戸錠・・・なんて、
若い人たちにはわからないのかなぁ~

ふたりとも最近ではコミカルな年寄りの役ばかりなので、
昔のようにとはいかなくても、
やくざ映画やハードボイルドとか好きだった人には
夢のようなサービスシーンになったと思います。

残念なのは、(あんまり言いたくないのですが)
稲森いずみの美蘭。
最初「伝説の歌姫」で出てきたときは、
あまりのひどさにひっくり返りそうになりました。
歌姫のくせに、レパートリーは「早春賦」1曲。
それがとてつもなく下手くそなのです。
中国語も、設定では日本人キャストのなかでは
一番上手くなければいけないのに、
これも一番下手。
ビジュアルはこの映画の雰囲気にはあってましたが、
演技がこれでは、話にならないです。
せめて歌が李香蘭の「夜来香」だったらよかったのに。
何で使えなかったのかな?
大人の事情ですかね?

「日本探偵協会推薦」
というテロップが最初にながれ、
そんな協会があることにも驚いたのですが、
私たちが「探偵」ということばから連想する
古典的なパターンが見事に映像化されて、
心地よかったです。

「超越者(神)は暗号と言う形でのみあらわれる」
「日常の生活から脱して限界状況にたったときのみ、
 その暗号を解読できる」
「暗号解読は自分を解放する手段」
「暗号は隠された人の心を人につたえる手段」
(うろ覚えですが)暗号に関する名言もちりばめられて、
「私の唯一解けない暗号は、心の中でさく赤い蘭の花」
・・・なんて、最後はちょっと気障でした。

 つっこみどころはいろいろあるので満点はつけられませんが、
この映画、見所満載で、とってもおススメです。

kerakuten