「映像美と女性キャラの強さに魅了されて」ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 古元素さんの映画レビュー(感想・評価)
映像美と女性キャラの強さに魅了されて
今回でこの作品を鑑賞するのは三度目。だが貞エヴァと呼ばれる漫画版の物やアニメ、旧劇場版を観てからの鑑賞は初めてである。だからこそ比較してしまう。比較して最も痛感したことは2つ。圧倒的な映像美と、女性キャラクターの強さ。
旧劇場版では青い海の中所々赤い海が見受けられる。その際に感じられる「日常の中に潜む非日常」こそが良く、全面赤い海である今回のものを忌避する声もある。個人的にはネルフマーク、特に光に透けた時に見える林檎の赤、綾波レイの瞳の赤、使徒の死後に降る血の雨、それらと調和して素敵に思えた。そしてやはりヤシマ作戦。当時から大胆不敵な作戦内容や遂行中の映像に興奮させられるものがあったが、それを最新技術で再現、リニューアルされるとその興奮も数段上がる。日本中の明かりが九州や北海道から徐々に消えていく場面、映える星空。アニメでは技術の運搬にレイの零号機を用いていたが、今回はたくさんの人間の手によって運ばれる場面も良かった。後に最後の使徒と銘打ち殲滅せざるを得ない人間。底力を見せつけられるような気分にさせられた。旧劇ならではの良さももちろんあり、新劇場版を観ない人間がいることも存じているが、心底もったいないと思わざるを得ない。
そして女性キャラクターの強さである。まずはヒロインとも名高い綾波レイ。彼女は常に「私には何もない」という。「何もない」からこそ強いのかと思っていたが違った。ヤシマ作戦遂行前、シンジの手術を手術室の前から見守る場面からエヴァ搭乗時まで、彼女は肌身離さず「私がこの世で唯一信じている」碇ゲンドウの眼鏡をケースに入れて持っている。守るものが彼女の心の中にあるからこその強さだと、だからこそ捨て身の盾と化することができ、「あなたは死なないわ、あたしが守るもの」と言えたのだと痛感した。
シンジの上司である葛城ミサトに話を移したい。アニメ版では彼女自身もシンジやのちに登場する二番目の適格者惣流アスカラングレーと共に悩み葛藤していく。その証拠にシンジに対して強く言い返す場面が多い。しかし今回は違う。かなり老成したように見受けられるのだ。一度だけシンジが命令違反した際少し怒鳴った場面はあったが、その後すぐ自らの頬を殴る。また漫画ではシンジに見せたがらなかったセントラルドグマをも自ら見せる。シンジだけではなく皆で闘っていると知らせるために。何と言ってもヤシマ作戦。シンジが一度目の射撃を失敗して涙していた際、狙撃手をレイに変更することを試みる総司令ゲンドウに立ち向かう。今回のミサトは、アニメや漫画のようにただ自らをシンジに重ねるだけではない。彼を心底信頼しているのだ。それを顕著に感じることができた。
彼女たちに引っ張られるかのようにシンジも成長する。綾波レイに守り守られることで、葛城ミサトに信頼され献身的に支えられることで、そしてクラスメイトたちに彼の内部を知って、激励されることで。その成長を強く見受けられるのが「:破」である。予告で「どんどん壊れていく」と表現される碇シンジ。彼がどのような感情になるのか、次回作も考察していきたい。