ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 : インタビュー
時に西暦1995年。国が、社会が、そして個人が“自分とは何か?”を探し求めていた空気の中、「もはやオリジナルなんて存在しない」と公言したクリエイター=庵野秀明の理想と苦悶の果てに、「新世紀エヴァンゲリオン」は生み落とされた。多くの謎とリアルな心理描写、そして観る者のどんな嗜好をも飲み込んでしまう深淵さは、やがて世代を超えた一大ブームを巻き起こす。ブームの頂点で衝撃の結末を提示したあの劇場版から10年――新劇場版4部作として、エヴァンゲリオンは再び我々の前に姿を現そうとしている。いまなぜ“エヴァ”なのか? この“?”に迫るべく、キーパーソン2人に話を聞いた。(聞き手:村上健一)
大月俊倫プロデューサー インタビュー
「以前とはまったく別物。誰もが楽しめる完全なエンターテインメントです」
まずは、プロデューサーの大月俊倫。庵野総監督とは20年来の友人、かつキングレコード常務取締役である彼の存在なくして、エヴァを語ることはできない。今回の劇場版に関しても、スタート時にはやはり大月がいた。
「庵野さんとの特撮TVシリーズの企画が2年前に頓挫しちゃって、ある日『エヴァのTVシリーズをもう一度、劇場版として3部作(当初)で創ってみたい』と話をいただきました。作品がどうなるかなんて関係ないんです。無茶や紆余曲折あることは大前提なんだけど、庵野さんとの仕事は、とにかくおもしろいんですよ。ヒリヒリした緊張感は彼とじゃないと得られない。人柄の部分が大きいのは確かですよね。スタッフ、キャストみんながそう。“庵野秀明の新作”に付き合ってるんです。たまたまそれが“エヴァ”というだけです」
個人、庵野秀明の新作――そうなのだ、彼の作品はその時の心情が、まさにそのままフィルムに焼きつき、“プライベートフィルム”と言ってもいい空気を帯びる。だからこそ、これから世に出る新しいエヴァは、期待と不安が入り混じった視点で語られる。
「はっきり言っておきますが、まったく違うものになってます。タイトルも変わっている(ヱヴァンゲリヲン)わけですから。物語は前作をなぞっていますが、登場人物の時系列・配置はかなり違いますし、まったくの別物と言っていいと思います。誰が観ても楽しめる完全なるエンターテインメント。ご家庭を持たれたことも含めた12年間の庵野秀明の精神の変遷や成長の歴史、それが克明にフィルムに出ています。製作がほぼ決定してから、総監督の庵野さんと監督の鶴巻(和哉)さん、総監督助手の轟木(一騎)さんと4人で打ち合わせをしたんですが、その際に庵野さんが『いやあ大月ちゃん、改めて全話観たら……「エヴァンゲリオン」っておもしろいねえ』って話すんですよ(笑)。庵野さんは、自身の作品の評価をほとんどしないんです。それが、『エヴァンゲリオン』を自分の口でおもしろいって……初めて聞きました」
自分の作品を客観視できる、それは心の成長に他ならない。先のエヴァが描いた“コミュニケーション不全”という問題がもはや当たり前のこととなり、「自分たちの世代がダメなんです。成長してないから若い人が迷っちゃうんですよね」と大月が語ったいまの時代に、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」は新たな成長物語を提示してくれるに違いない。