劇場公開日 2007年9月8日

サッド ヴァケイション : 映画評論・批評

2007年9月4日更新

2007年9月8日よりシネマライズほかにてロードショー

“女=母性”を描き、新境地を切り開いた青山真治監督の最新作

画像1

青山真治監督の最新作は、衝撃のデビュー作「Helpless」(96)の続編に当たり、同作で主演だった浅野忠信演じる健次が主役となるだけでなく、微妙に同作とも関連していた代表作「EUREKA ユリイカ」(00)で宮崎あおいが演じた梢ら両作の出演者が登場、2つの川の流れが交錯し、統合される合流地点のような意欲作である。なおこれら3作が、いずれも監督の出身地である北九州一帯で撮影されていることも付け加えておこう。

運転代行業に従事する健次は、かつて自身と父親を捨てて他の男のもとに走り、憎しみの対象である実の母親に遭遇し、彼女の現在の夫が経営する運送会社で住み込みで働くことになる。その運送会社に梢もほぼ同時期に流れつくわけだが、「Helpless」での健次が父親を中心とした“男=父性”との対決を強いられたとすれば、今回の映画では、実の母親を中心に健次の子を妊娠することになる恋人ら“女=母性”との対決やコミュニケーションの可能性を問うことが主題になる。前作での“男=父性”が崩壊寸前だったのに対し、本作での“女=母性”はますます強靭で、健次ら男性による憎悪や抵抗、愛情をも優しくも不気味な微笑みで包み込み手玉にとるかのようであり、そこから生じるある種の“軽さ”や“笑い”が、青山作品に新境地を開く。今後もこのスリリングな物語は続くのだろうか? その行方を占う上でも必見の傑作だ。

北小路隆志

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「サッド ヴァケイション」の作品トップへ