劇場公開日 2007年7月28日

天然コケッコー : インタビュー

2007年8月1日更新

山下敦弘監督 ロングインタビュー

■完璧なスジ(脚本)を得て、少女たちのドウサ(演技)に専念できた。

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──それにしても、渡辺あやさんの脚本は力業をやったもんですね。

「本当にくらもちさんの原作マンガが好きで、原作を崩さずに素晴らしい脚本を書くってこういうことだな、と思いました」

──日本映画界の言葉に「一スジ(脚本)、二ヌケ(撮影)、三ドウサ(役者)」がありますが、渡辺さんの脚本がいいと、あとはヌケですか、ドウサですか?

「ヌケよりもドウサに苦心しました。とにかく子供たちがソコにいる感じを味わってほしかったですからね。キャスティングしたのは僕ですが、いざ学校に全員を並べてみると、都会の匂いがしてヤバいって思いましたからね。それから彼女らの演技を通じて、架空の町を作ることを意識しました」

中学生の初々しい恋愛観を表現
中学生の初々しい恋愛観を表現

──そういう意味で、そよが大沢広海(岡田将生)とキスしたあと、彼のコートを着て「わし、この匂い、好きじゃ!」と叫ぶ、“天然”丸出しの場面がありますね。あの恋愛に対する鈍感さはなかなかのドウサでした。

「中学生のキスって、僕は体験ないんですけど(笑)、見てるとドキドキしますね。あのシーンなんかは、ヘンな汗が出ましたもん。カットを割ったりしなかったんで、カメラを置いてあのキスを、みんなで見守っていましたけど、2人の心をほぐそうといろいろと声をかけるんだけど、全部裏目に出て、緊張感ただよう現場になって(笑)。あのキスシーンの前に、夏帆が異様にしゃべるんですよ。『ああ、緊張してるな』と思いました。2人のキスは3回あるんですが、実際にするのは1回目でしたから。そよは彼のコートがほしくてキスを我慢するんだけど、夏帆は実際にキスをしないといけないわけです。あのドキドキ感はとても良かった。心と体が追いついていない恋愛観をうまく出せましたね」

■日本映画を代表する佐藤浩市、夏川結衣らをバイプレイヤーに。

──贅沢だなと思ったのは、夏川結衣さんと佐藤浩市さんの両親。田舎ではえらく美男美女です(笑)。

父・佐藤浩市、母・夏川結衣、娘・夏帆 絶世の美男美女家族?
父・佐藤浩市、母・夏川結衣、娘・夏帆 絶世の美男美女家族?

「たしかに美男美女だ(爆笑)。夏川さんと浩市さんのバランスって、要は、浩市さん演じるお父さんにとっての元カノである大沢くんのお母さんも含んだ三角関係によるんですよね。原作ではそれが詳しく描かれているんだけど、映画では子供たちを物語の軸にしたかったので、ほったらかしなんです(笑)。そこで、そよが『お父さん、浮気してるんじゃないか』と疑いを持つようなお父さんを探したら、浩市さんがピッタリで、その上、『このお母さんに戻ってくるよな』と思えるような強いお母さんを考えた時、夏川さんしかいなかった。夏川さん、見るからに芯が強そうな女性なんですね。何せ、映画ではほったらかしなもので、少ないシーンでもそのニュアンスが出る役者さんを探したら、2人になった。実はお母さん、夫の浮気の現場を見ているのに、見て見ぬふりをしている。夏川さん以外の他の役者さんだったら、あのシーンで動揺したかもしれません」

──つまりは、自然の中で子供たちを遊ばせておく映画だと思うんですよね。大人たちをバイプレイヤーにしないと、子供たちの物語にならない。それは難しくなかったですか。

「実は、そのことを一番よく考えていました。でもまさか、現場に来た佐藤浩市さんに『今度は脇役です』とは言えないじゃないですか(笑)。でも、そのことを、大人たちはみんな分かっているんですよ。だから、少ない出番では『よし、来た』って感じで、力入れすぎなくらい気合いが入っていました(笑)」

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インタビュー4 ~山下敦弘監督 ロングインタビュー(4)
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