劇場公開日 2007年7月7日

「最初は、全く救いのない映画かと思った」街のあかり 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0最初は、全く救いのない映画かと思った

2024年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

これまでみてきたアキ・カウリスマキの映画の中でも、とりわけ救いのない映画のように思われた。

ショッピングセンターの警備員を務めるコイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)。例によって周囲から孤立している。特に趣味もなく、近づいてきた美女ミルヤ(マリヤ・ヤルベンフェルミ)には、ハニートラップで、本人の知らぬ間に宝石店襲撃の幇助者に仕立て上げられ、一人だけ囚われて刑務所で服役。全くやりきれない筋立て。

しかし、途中で変だなと思った。

まず、本人が自分のありえない運命に対し、全くと言って良いほど告発、抵抗しない、基本的に従順。本当に心を寄せてくれる女性アイラ(マリア・ヘイスカネン)はいるけど、付き合いはあくまで淡いまま。

冒頭から、ロシアーソ連の影がある。最初に出てきたエスカレーターは、ショッピングセンターのものだろうけど、モスクワの地下鉄のそれみたい。警備のシステムも厳しくて、ロシアから来たのでは。宝石店の襲撃にしたって、本当の黒幕はロシア人らしく、ギャングたちもお伺いを立てていた。

そうか、コイスティネンの行動は、ロシアと対峙していた頃のフィンランドを象徴しているのではないか。途中で、フィンランドの英雄、シベリウスの指揮者姿の肖像画も出てきた。フィンランドとロシアには長い抗争の歴史があるが、フィンランドは人口550万人程度の小国、とてもロシアのような大国とまともにぶつかっても叶わない。

アキ・カウリスマキは、苦しいことのみ多い貧しき労働者たちに、耐えていれば、いつかはほのかな「あかり」が灯ることを教えているのでは。最後まで観て、いつまでも心に残る映画と知れた。

詠み人知らず