「人間には二種類ある。一途に愛し続ける者とその愛を受け入れる者だ」人生は、奇跡の詩 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
人間には二種類ある。一途に愛し続ける者とその愛を受け入れる者だ
ロベルト・ベニーニが監督・主演をつとめた映画といえば、真っ先に『ライフ・イズ・ビューティフル』を思い浮かべる人も多いであろう。今作でも公私共にパートナーであるニコレッタ・ブラスキを思い続ける男を演じているベニーニがそこにいて、イラク戦争をモチーフに取り入れるなんてところにも共通項がありました。主人公アッティリオ(ベニーニ)は詩人。夢と現実を混同しているかのような楽天的な人物像は“イタリアのチャップリン”との異名を復活させたかのようにも感じられるし、東国原知事にも似たおでこの輝きも健在でした(いい意味で)。
『ライフ・イズ・ビューティフル』では後半に息子への愛情のウェイトが大きくなりましたけど、今作では2人の娘がいるものの愛の対象はずっとヴィットリア(ブラスキ)という女性だけ。彼女のことを想うと周りのモノが何も見えなくなるほど破天荒な行動を繰り返すコメディアンぶりを発揮していました。彼女はそんな一方的な愛をも鬱陶しく感じ、「ローマに雪が降る中、虎を見れたら考えてもいい」と言ってさらりと彼から逃げるのです。しかし、悲劇は突然訪れる。イラク人の詩人フアド(ジャン・レノ)が帰省し、その取材を続けていたヴィットリアが建物の爆発に巻き込まれて意識不明の重体に・・・
イラク戦争勃発によりバグダッドへの空路も絶たれるが、赤十字の医師団に潜入。もう形振りかまわず彼女の看病をするために命を賭してイラクに乗り込むベニーニ。愛の深さをユーモアとシニカルな演出によって涙腺を攻撃され始める。どうしてこんなオッサンによって泣かされなきゃいけないんだと身構えつつも、ベニーニの献身とジャン・レノの嘆きを観ていると、米軍に催涙弾をぶちこまれたような気分になってしまうのです。そして、大人のファンタジーを現実味というスパイスを加えたラストシークエンスで心が温まり、意外な人間関係にも驚かされる。
戦争は何故起こってしまうんだろう?そうした素朴な疑問と、バグダッドはかつての“バベルの塔”から近いという皮肉。言語の違いによる意思疎通や宗教の違いなど、様々なネタをも振り撒きながら、両極にあるはずの戦争と愛が身近にあるんだということを訴えてくる。人に感動を伝えたいがために詩人となった主人公という設定も、一見チグハグな構成ににじみ出ていたように思いました。
映画の中のテレビで放映されていた映画は『続・夕陽のガンマン』。このイーストウッド主演映画でも性格の違う3人の人間が見事に輻輳していましたが、砂漠を歩かなければならなかったり、戦争に巻き込まれるところなんてのもかなりオマージュしているのかとも感じられます。また、ベニーニの夢の中で歌うトム・ウェイツもいい味出していました。今夜はいい夢を見させていただきます・・・
【2007年3月映画館にて】