「多国籍VIPクラブ・ミルトにて」日本以外全部沈没 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
多国籍VIPクラブ・ミルトにて
題名はディザスター風ですが難民問題をシニカルに描いた社会派風コメディです。
「日本沈没」ヒットを祝う酒席でのSF作家仲間の妄想、悪ふざけが本になった。それをまたお馬鹿映画の巨匠河崎実監督が更に膨らませて映画にしてしまいました。多少でも脳みそがある人なら仮に日本だけ陸地が残ったとしても世界の終わりと察するでしょう。自給自足の原始時代にもどれる人はノアの方舟の一握り。しかし、そもそも無理、不可能をごちそうにしているのがSF作家という変人ですから止められません。さんざん酒の肴にした挙句放り投げます、全滅だ・・。
筒井先生にあったかは不明ですが日頃から抱いていた外人コンプレックスが一気に爆発、名だたる有名人が難民となって日本に押し寄せたという設定、原作は記者、メディア連中のたまり場クラブ・ミルト内での雑談がメインの短編です。活字ではディザスターのインパクトが出せないので著名人の実名をあげて凋落ぶりを語るのを目玉にしています、食うに困ったショーンコネリーがボンドガールを集めてAVに出ているとか、エリザベス・テーラーが街娼に落ちぶれたとか、ローマ法王が上野公園を欲しがっているとか噂話にしても名誉棄損になりそうな内容がぎっしりです。筒井先生の時代の有名人では古すぎるし、訴訟になると怖いので実名はご法度、ジョージ・ルーカスをルージ・ジョーカスに改名、シュワちゃんやブルース・ウィルスは例によってそっくりさんを使っています。日本語学校で大儲けするディーブ・スペクター他外人がいっぱい出ています。ご多分に漏れず河崎監督は政治家をいじるのが生きがい、本作も小泉首相ならぬ安泉純二郎首相(村野武範)はじめ各国首脳から国連事務総長、北朝鮮の首席まで登場、肩書きだけは豪華絢爛です。
外国人労働者に冷淡な記者の夫に外人妻のキャサリンが「移民にも自由とチャンスを与えるのが思いやりの国、日本の筈でしょう」と噛みつきます。街で出会った落ちぶれたオスカー俳優とキャサリンの外人同士の会話のシーンは外国のロマンス映画の一篇を観るようで秀逸です。
映像にするとリアルっぽさが仇になり苦笑を超して泣きたくなるシーンもありますが原作よりはよほど真面目に取り組んでいます。
新聞記者のうさん臭さは分かるような気もしますがTV業界人の古賀(柏原収史)が一番まともな家庭人なのは皮肉なのかシンパシーなのか、田所博士の寺田農さんは監修の実相寺さん繋がりなのでしょうがパツキン美女に見向きもせず自説だけを悲壮に唱える堅物で押して欲しかった気もします、代わりにというか本家(日本沈没)の潜水艇パイロットから変身した防衛庁長官の藤岡さんが大真面目で狂人オーラ全開でした。
外国人労働者受け入れ拡大に対するメッセージ性(誰も思わないか?)と言うよりは劇中の絵本のエピソードのように生あるうちは皆仲良く、境遇に合った生き方をしましょうということでしょうか・・。お馬鹿映画にするにはテーマが生々しすぎてさすがの河崎監督をもってしてもふざけきれず、所々素になったところは実相寺さんのテイストのような気もします。