「ほんとの迷子は…」迷子 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
ほんとの迷子は…
孫を探して街中を駆け回る老婆、とそれをパンで追いかけるカメラ。しかし当然ながら老婆はパンの可動域などまるで考慮しない。カメラは幾度となく老婆を見失う。そのたびになんだか歯痒い気持ちになる。そっちじゃねーよ!こっちだよ!と手招きしたくなる。ここで我々は迷子の孫に自分自身を無意識的に重ね合わせていることに気がつく。
老婆の迷子探しはもう一つの系列である少年の物語にも伝染する。少年までもが自分の祖父の捜索を開始し、歯痒い思いはよりいっそう募っていく。極めつけは彼らの探していた迷子が最終的に登場してしまうことだ。
どうあがいても(物理的に)老婆や少年と邂逅を果たすことができない我々は、心のどこかで老婆と少年が最後まで孫や祖父と出会えないまま終わることを期待していたように思う。もし彼らが出会えてしまえば、迷子=我々=孫・祖父という等式が崩れ、我々だけが迷子の側に取り残されてしまうからだ。
厳密に言えば映画の中で彼らは実際に出会えたわけではない。しかしゆくゆくは出会うことになるかもしれない。その可能性は十分にある。彼らは「映画の中」という同じ空間を共有しているのだから。
一方「映画の外」の我々はといえば、永久に迷子のままなわけだ。「没入感」などといって映画の中にさも入り込めたかのような物言いをするのは少し控えようかな…と反省。
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