「稲穂が揺れる田園風景、抜けるような青い空、「アラベスク第1番」の美しい旋律が残酷な現実と強いコントラスト。監督らしい柔和な映像美とあいまって最後まで引き込まれます。」リリイ・シュシュのすべて 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
稲穂が揺れる田園風景、抜けるような青い空、「アラベスク第1番」の美しい旋律が残酷な現実と強いコントラスト。監督らしい柔和な映像美とあいまって最後まで引き込まれます。
目黒シネマさんにて『~特集 岩井俊二 四つの心象風景~』(6/29~7/5)と題した特集上映に監督初期『Love Letter 4Kリマスター』『PiCNiC』『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』4作品上映。
『リリイ・シュシュのすべて』(2001年/146分)
当時はまだ珍しいインターネット掲示板のコミュニティでの現実逃避をいち早く題材にしながら、多感な中学生のいじめ、脅迫、カツアゲ、援助交際、万引き、殺人、自殺などリアルで残酷な日常のなか心が乱れる子どもたちを、赤裸々に包み隠さず描いた衝撃作でしたが、気づくともう公開から四半世紀も経ちますね。
本作でデビューした市原隼人氏は熱血漢のイメージとは異なる繊細で過酷な現実を耐え抜く主人公・蓮見雄一を初々しく好演。蒼井優氏、勝地涼氏、高橋一生氏らのフレッシュな演技も見どころの一つ。
映画内の架空のシンガーソングライター・リリイ・シュシュも小林武史氏がプロデューサーを手がけただけあり、音楽チャート1位を獲得する人気歌手という設定に遜色ない歌唱力とパフォーマンスでしたね。
目を覆いたくなるシーンが多い本作ですが、稲穂が揺れる長閑な南関東(足利市)の田園風景や、どこまでも突き抜けるような青い空、クロード・ドビュッシーの「アラベスク第1番」の美しい旋律が残酷な現実と強いコントラストをなして、岩井監督らしい柔和な映像美とあいまって実に印象的で最後まで引き込まれます。
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