羅生門のレビュー・感想・評価
全79件中、1~20件目を表示
語りの騙り
黒澤明監督作品。傑作です。
本作では、登場人物の虚栄心によって、殺人の事実が歪曲され、それが映画的手法によって同じ強度で映像化されているのが面白い。またそのことを通して人間の愚かさが描かれており、娯楽性のみならず人間性とは何かを深く問いているのである。
また羅生門のセット、光と影のコントラスト、雨と汗の演出も素晴らしい。この素晴らしさについては、多くの研究の蓄積があると思うので、今後も探求をしていきたい。
人間とは、殺害されて幽霊になっても、自らの見栄のために事実を歪曲してしまう愚かな生き物である。しかし黒澤明監督が映画に翻案するにあたって、追加したラストのシーンでは、人間性の可能性が描かれている。自らの愚かさに光をあて、子どもを抱きかかえること。そして雨上がりの門をくぐること。監督が信じた人間性を私も信じてみようと思う。
人間の弱さを抉る名作
今年7月に閉館となる丸の内東映で、『昭和100年映画祭 あの感動をもう一度』と題する名作リバイバル特集を開催していますが、日本映画の名作中の名作である黒澤明監督の「羅生門」を上映していたので、観に行って来ました。以前配信で一度観ているのですが、やはり劇場で観るのは全く趣を異にしており、非常に感激しました。
本作については今さら語るのが憚られるほどに有名ですが、半壊した羅生門の不気味な佇まいをはじめ、三船敏郎や志村喬などの黒澤作品常連俳優たちの演技、芥川龍之介の原作小説の題名の通り真相は”藪の中”となるストーリーの妙味などなど、どれをとっても印象に残る作品であることを再確認しました。
中でも印象的だったのは、三船敏郎扮する盗賊・多襄丸と、森雅之扮する武士・金沢武弘の切り合い。三船と言えば堂々とした殺陣やリーダーシップなど、カッコいい侍像の象徴のような存在です。本作でも最初のうちは豪放磊落な雰囲気を醸し出していたのに、いざ金沢武弘と斬り合いになると、その剣先はブレブレで腰は引けている姿は情けない限り。その落差がなんとも言えないものでした。そして各登場人物が、外面と内面のギャップを隠すために吐いた嘘が積み重なり、何が真相なんだか分からなくなるところが、何か現実の生活においてもあるように思えて怖くなりました。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。
難しい作品だったなぁ
さっぱり分からない不思議な話のこと
本編88分で短めです。
内容の面白さは、原作を知っているかどうかは関係ないと あらためて思いました。
今作の原作は『薮の中』(芥川龍之介の小説)ですが、『今昔物語集』に収録されている「羅城門登上層見死人盗人語」をミックスし脚色して映画化されたそうです。
『今昔物語集』を芥川龍之介が小説にした「羅生門」は、ドイツの昔話をグリム兄弟が小説にした『グリム童話集』のようなポジションです。
黒澤明監督によって映像化された今作は、『グリム童話集』に収録されている「白雪姫」を映像化したディズニーのようなポジションになるわけです。
もとを辿って 正確さを求めるとなると、原作って どれのことでしょうか?と なります。
三船敏郎さんが扮する多襄丸と真砂(京マチ子)のシチュエーションが 語り部が変わると異なります。どのエピソードが本当かどうか 或いは全員 大小関わらず嘘の証言をしているかも知れず、その答えは 曖昧なまま終わります。
鑑賞後に知的な刺激がありました。
ラスト、杣売り(志村喬)の台詞で、1人増えると 7人の子どもを育てることになる旨の 会話があります。杣売りは、木こりです。そして、彼の姿格好は 7人のこびと そのものです。白雪姫を連想したので、このようなレビューに なりました。
キャメラウォーク(カメラワーク)が秀逸で センスが良く、俳優も上手いので 没入できました。
私を含めて日本人は、ワークとウォークを逆に表記したり発音している らしいですが、日本では義務である英語も 歴史同様 さっぱり分からない と思う今日この頃です。
やはり名作
10代の頃、TVで最後の方を観ましたが何か意味が分からない映画でした。上田吉二郎の下人が志村喬の杣(そま)売りの男を罵る場面が印象に残っております「なんだ、お前もいっしょじゃないか!ははは(笑)」まぁ楽しくない映画なんだな・・・しかし、この映画は海外で高く評価されベネチア映画祭で金獅子賞をいただいたそうです。やっぱり難しい映画は欧米のインテリに受けるんだなと勝手に解釈してました。
今回はじめて映画館で、この映画を観て想像以上に面白かったです。大まかなストーリーは忘れてしまったのですが、雨宿りで杣売りと旅法師が奉行所での回想シーンで始まり山中で起きた武士の殺害事件に関わった目撃者や関係者の証言がフラッシュバックで何パターンも再現されるのです。証言が皆食い違っており真実は藪の中(原作:芥川龍之介)後に羅生門スタイルと呼ばれベルトルッチのデビュー作「殺し」や近年ではジュスティーヌ・トリエの「落下の解剖学」が、これを踏まえております。
役者陣もなんかギラギラして凄い。京マチ子は街にでも歩いていそうな今でも通用する美しさ。三船敏朗の多襄丸は観るまで荒々しいイメージがありましたが、それだけでなく男前で繊細な演技で幅広い役者さんですね。志村喬の杣売りは山道を歩くシーンが印象に残りました。これから杣売りに行くよ〜という感じが出てます。「七人の侍」でエキストラ役だった仲代達矢がお侍役で歩くシーン(画面の端っこなのに)何度もNGを出されたエピソードを知っているだけに志村喬は何度も歩く練習したのだろうと憶測してしまいます。森雅之の金沢武弘もクールですね。金沢と多襄丸が最後取っ組み合いになるのは凄い!シン仮面ライダーの池松壮亮と森山未來の激闘みたいな。一番びっくりしたのは旅法師を千秋実が演じていたのは最後まで分かりませんでした。
撮影は宮川一夫・・・光と影を生かした映像で、木陰が印象的な山中の屋外ロケ、あと奉行所場面の雲の流れ、羅生門での大雨が演技に一役買ってます。ウェルズ「市民ケーン」、ドライヤー「裁かれるジャンヌ」、ベルイマン「野いちご」、フェリーニ「8 1/2」、フラー「裸のキッス」など白黒映画のベスト(他にもいろいろありますが)に入る素晴らしい映像でした。映画館で観れてよかったです。
世界にクロサワの名を知らしめた、超テクニカルな傑作ドラマ
監督脚本、黒澤明。
芥川龍之介の『羅生門』……ではなく『藪の中』を映画化したもの。
【ストーリー】
しのつく雨の京都。
朽ちた山門に、男が三人雨やどりをしている。
一人は僧、一人は杣(炭)売り、一人は下人。
雨にけぶるはるか前方をながめ、やがて僧と杣売りが、検非違使に呼ばれて証言させられた、奇妙な事件について語りはじめる。
金沢という武家の死体を、杣売りが発見した。
斬殺されたものであった。
三日が経ち、金沢を殺したとする盗賊の多襄丸と、金沢に帯同していたはずの妻・真砂がそれぞれとらえられた。
死体の状況に疑いがあり、死んだ金沢のかわりに、口寄せのできる巫女を呼んだ。
検非違使は白洲にそれぞれを引きたて、証言させる。
初めて見たとき、腰を抜かすほど驚きました。
いや本当に。
大げさじゃなく。
事前にウィキペディア読んで話は知っていたのに驚いたんだからすごい。
法廷劇の形をとったミステリなんですが、三人の事件被告が証言するたびに、真相の印象が変わるというその巧みな構成。
初見単純な事件が、証言が重ねられるごと、それらの輪郭を崩すことなく、どんどんと生々しい人間の本質がむき出しにされてゆく不気味さ。
"ラショーモン・エフェクト"なる社会心理学用語まで作られた、有無を言わせぬドラマの説得力。
もう感服ですわ。
堂々とした武士の金沢と、悪当然とした多襄丸の、実際は情けないありさまや、裏切りが表面化するや開きなおる真砂の嗤う鬼面。
クロサワヒロインは大体二種類に大別できるんですが、お公家眉系のヒロインは必ず内面に鬼が潜んでて、心底怖いですな。
豹変の瞬間は毎回ヒャってなります。
初めて見ておどろいて、次の日に見てまたおどろいて、さらにその週末にもう一回見ちゃいました。
毎回ヒャってなりました。
画面は一見地味ですけど、画角を切り取るセンスが抜群で、白黒ながらCMでもなかなかお目にかかれない美しさ。
数ある黒澤作品でも、ベストに上げたいのが、この羅生門。
今さら自分ごときが薦める必要もないんですが、このえげつない人間描写は、どえらいです。
名作ですけどね
黒澤が世界に認められたあまりにも有名な作品なので、色眼鏡をかけずに観られる人は殆どいません。見る前から「これは名作」というのが刷り込まれていますが、冷静に観ると、七人の侍や用心棒、赤ひげ、天国と地獄みたように「文句なしに」面白い作品ではありません。いかにも芸術的、純文学的で評論家受けはするでしょうが、一般的には、つまらなくはないけれど面白いとは言い難い、というの大方の感想でしょう。
何といっても問題点は演技の演出方針です。
三船、京両先輩は演技が大げさすぎて失笑モノです。
志村、千秋両先輩も七人の侍でみられるような余人を以って代えがたいはまり役からほど遠い、素人演技です。はっきり言えば「演技がクサイ」
世界のクロサワここにあり
どうする検非違使。
濃密な枠構造
なんて濃厚な構造と台詞に満ちた88分なんだろう。そして役者達の素晴らしい演技。
殺された侍の妻(京マチ子)が語る背景に流れる、あ、これが「ボレロ」かと感動した。編曲された日本のボレロ。ここにボレロ的リズムが置かれたことで、語り手=京マチ子演じる妻が自分の語りにだんだんと酔いしれ自分を美化していく陶酔感に私も巻き込まれた。最後は「この弱い愚かな私」と来た!
最初と中間と最後は朽ち果てた大雨の羅生門。このシーンは映画「羅生門」の枠にあたるが、その場にいる3名のうち2名はメインの話の中にも目撃者として証言者として足を突っ込んでいる。そして人間不信に頭を抱え絶望している。こんなタイプの枠物語ないような気がする。
数日間のことで羅生門では大雨、林の中は真夏で暑く虫がブンブン飛んでいる。光と影が硬質な映像でとても眩しい。妻を馬に乗せて歩く侍。このときの森雅之は全く魅力がないのに、妻(京マチ子)が盗賊(三船敏郎)に手ごめにされた後に妻を見やる眼差しは冷たく蔑みに満ちていて凄みがある!でもあくまで妻からの視点。一方で、三船敏郎の小動物のような可愛らしさと機敏さとしなやかな身体の動きは最初から光っていた。三船敏郎の瞳は少し薄い茶色がかっている(モノクロだけど私にはそう見えた)。羽虫を払い手でポリポリと体を掻く仕草、キラキラしてよく動く目、女好きだがオモチャを欲しがる子どもに過ぎない。
この3名の話に足を突っ込んでしまった羅生門に居る二人は人間不信に陥るが、第三の男は違う。「本当のことは言えないのが人間だ」「誰も彼もがてめえのことばかり」「羅生門の鬼さえ人間の恐ろしさを怖がって逃げ出した」と悟ったようなことを言う。
でも志村喬演じる男=真実を全部見てなおかつ盗みもした男は、赤ん坊を6人育てている、一人増えようが同じだと、羅生門に捨てられていた赤ん坊を引き取る。この最後に置かれた枠物語が若い坊さん(千秋実)と私達を人間不信から救ってくれる。
音楽、映像、脚本、構成、全てがギラギラきらきらしながら優しさに着地している。映画「羅生門」はこういう話だったのか。自分なりにだけれど映画館で集中して見ることができてよかった。
ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、アカデミー賞名誉賞受賞。世界に誇る...
作品の凄み
証言のエクスタシー
藪の中ではない‼️羅生門だ‼️
この作品によって "世界のクロサワ" が誕生‼️という事は世界映画史上において最重要作品だということです‼️原作は芥川龍之介の「籔の中」で、「羅生門」からは舞台となる羅生門という建物だけが使われています‼️すさまじい豪雨の中に立つ羅生門の見事な造形はいちど見たら忘れられない‼️素晴らしい美術ですね‼️登場人物たち全ての証言が食い違う中、真実をめぐる人間の業、欲望、虚栄心とその先にある人間の善意(志村喬さん)といったテーマ‼️そして躍動感あふれる映像‼️特に森の中を縦横無尽に動き回るカメラワークは、まるで木漏れ日に色がついてるみたいで、さすがは宮川一夫‼️そして我らが三船さんを始めとする出演者‼️野生児そのままの三船さんや森雅之さんの気品ある侍ぶりも素晴らしいのですが、高貴な若妻からエゴと欲むき出しの毒婦へと変貌する京マチ子さんが特に凄すぎ‼️そして、第4の証言者の木こりを創出してよりドラマティックな物語を創り出した黒澤監督と橋本忍さんによる完璧な脚本‼️しかしこの作品の一番見事な点はそのタイトルネーミング‼️物語はそのほとんどが「籔の中」なのに、タイトルは「羅生門」‼️やっぱり、外国の方にも発声しやすいのは「ラショーモン」‼️その時その時の決断というかセンスですよね、やっぱり歴史に残るのは‼️
全て、藪の中…
真相は「藪の中」
1950年。黒澤明監督作品。
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。
またアカデミー賞名誉賞(現在の外国語映画賞)も受賞。
原作は芥川龍之介の「羅生門」と「藪の中」をミックスして橋本忍と
黒澤明が共同で脚色した。
朽ち果てた羅生門の縁側か庭先で三人の男たちが、目撃した焚き木売り
(志村喬)の話を聞く形で進む。
映画のストーリーは「藪の中」で、「羅生門」はそれこそ軒先と門構えと
題名(これが素晴らしいのだが・・)を借りただけである。
「藪の中」と言う言葉は現代でも、真相が知れないことを指す言葉として使われている。
事件は焚き木売りが入った「山」で起こった。
武士が白馬に妻を乗せて旅をしている。
通りかかった盗賊・多襄丸(三船敏朗)は武士の妻・真砂の美しい指先と市編笠
から一瞬覗いた真砂の美しさに息を呑む。
欲情した多襄丸は真砂を手籠にしてしまう。
真砂の怒りは手籠を見ていて、真砂に軽蔑の眼差しを向ける夫(,森雅之)に向けられる。
真砂は多襄丸をけしかけ夫と決闘をして勝った方の妻になる・・・
そう言うのだった。
ここからは多襄丸、真砂、目撃者・焚き木売りの三者の意見がバラバラで食い違うのだ。
誰が武士を殺したか?
真砂の心に霊媒師が宿り、夫・‥金沢の弁明まで聞くことが出来る。
この映画は海外で高く評価されて、アラン・レネー監督の「去年マリエンバードで」
にも影響を与えたとのことです。
それにしても、多襄丸の三船敏朗の活気と狂言回しの役割。
真砂の京マチ子の妖艶さと映画の役への意気込み。
志村喬の最後にはヒューマニズムを感じさせる役割。
黒澤明監督作品らしいダイナミズムに溢れた作品でした。
過去鑑賞
流れる音楽はボレロをリスペクトしている。
全79件中、1~20件目を表示