羅生門のレビュー・感想・評価
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人間のもつ深み
人間の愚かさと奥深さを描いた芥川龍之介の「藪の中」、「羅生門」を、映画という形で再構築した大傑作。人間の持つエゴイズムを哀しいほどにまで炙り出し、見事な映像表現と迫真の演技で観る者を圧倒させています。
冒頭から映し出された降りしきる大量の雨、多襄丸と侍の藪の中での立ち回り、演者を照らす絶妙な光と影、、、 これらの圧倒的な映像美だけでも見惚れてしまうのに、食い違う証言を巧みに物語の中で構成させることによって、人間のエゴイズムを問いかける手腕は素晴らしいとしか言いようがありません。
黒澤監督は、芥川が文学で炙り出した人間の本質を、映像という形で新たに再構築し、より芸術性を高めていると思います… 人間の欲望や意思、その奥に秘められている人間の本質は、演者の目つき、表情、声、顔を浸る汗、照らす光の具合や、まわりの音などによって、無限の奥深さを与えてくれます。京マチ子演じる女は、恐ろしい程の数の顔を持ち、何を想い、何を感じ、何を望んでいたのか、答えのない幾つもの人間性を曝け出しています。視覚的、聴覚的な感受性、これこそ映画のもつ究極的な面白さで、物語を感じ取り、解釈する仕方を無限に広げてくれるのです。
最後に、この映画は人間のエゴイズムを炙り出しているとは言ったものの、本当にそれだけでしょうか。証言がそれぞれ異なるのは、何も自分を正当化するエゴイズムだけでなく、もしかしたら皆何か別の想いがあって、誰かを庇う部分があったのではないか、、、そんな複雑な心境が証言に含まれているのではないかと思いました。エゴだけでなくて、こんな可能性もあるかもしれないから、より物語が複雑になって深みを増しているのだと思います…
真心
人間は身勝手で、弱くて、嘘をつき、己の為に平気で人を傷つける。
ただ人を思いやる真心だけが救い。だけど人間は弱いから、それがとてもとても難しい。
いくつもの鎧を着て疑い、弱い自分を隠し、自分を守る為に良心は捨てて自分勝手に振る舞う。
誰の中にもいる醜い人間の部分と真心が描かれていてすごく面白かったです。
ヴェネチア獲ってるし誉められ尽くしているからとやかく言うものでもな...
ヴェネチア獲ってるし誉められ尽くしているからとやかく言うものでもないが、やはり別格。頭から黒澤明を見直してる最中だけど、カメラマンでここまで質が高まるものなのかと驚いた。演出を聞いてそれ以上の事をしてくれるスタッフの何とありがたいことか。全ての要素が噛み合っている。完璧。
ようやく、観た。
ようやく、「羅生門」を観た。地上波TVですが。NHK、ありがとう! 世界の黒沢監督が、1950年にベルリンを獲った作品なんだと、クレジットで知った。
俺が生まれる10年前の作品とあって、音はさすがに厳しい面があるけれど、画像はリマスターによってかなり観られる感じにはなっているよね。
原作の「藪の中」と「羅生門」を組み合わせて、現代ではもはや想像すらできない過酷な環境の中で、嘘ばかりつきながら、それでもなお人間らしさを残して生きている "ヒト" に対する、高らかな人間賛歌になっているんだね。
自分は、原作の一方になっている、芥川龍之介「藪の中」がとても好き。夏目漱石の「夢十夜」と並んで。本を読まなかった高校時代に唯一読んでいた小説。
前半にあたる「藪の中」部分。
何が本当かわからない、3人それぞれの言い分。この映画では、原作の真相を、女に翻弄された男たちとした。加えて、事実を、各自の心の中で、自分に都合のよい話に置き換えて、それぞれ全く別の話と信じ込んでしまう、弱い心の人間たち。そういう解釈にしたのだな・・・と納得はした。
後半の「羅生門」部分も、原作の突き放すような結末ではなく、人間愛を感じさせる結末にした。だからこそ、本作の人間賛歌が成り立っているということもよくわかる。人間に対してあれだけ絶望させておいて、最後の最後は、それでも人間を信じたくなるという余韻を残すところが名作なんだなあ、と思った。
ただ個人的な感想は、甚だ不遜な言い方だが「惜しかったなあ」だ。この映画の本質をなす部分のために、上記したように原作を解釈したわけだが、その結果、原作のひとつ「藪の中」がもつ "摩訶不思議な感じ" がぐっと小さくなった点が惜しかった。
自分は、この原作の不可思議感が極めて好きだったんだなあ、と感じている次第です。原作はごく短い小説なので、気が向いたら読んでみてください。
また、映画館が開いたら、是非どこかで上映してくれないかな。
宮川一夫の映像美に人間の醜さを暴いた黒澤映画の厳しさと願い
公開当時日本の評価は数ある秀作の中の一本の評価だったが、ヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞してから国内での評価が一変したという。アメリカでも2年連続アカデミー賞にノミネートされて、52年には名誉賞(外国語映画賞)を受賞し、53年の授賞式では淀川長治氏が出席して、その時の様子はハリウッド滞在記に詳しく書かれている。それまでの戦前戦後含めて日本映画が西洋の映画人から高く評価されることは殆どなく、日本映画の巨匠たちの代表作でも関心を寄せられることはなかった。海外に輸出して日本映画を宣伝すること自体想像できないことだった。その淀川氏のお話で最も印象深いのが、感銘を受け何度も通った俳優のリー・J・コップに日本映画のレベルを尋ねられて、この「羅生門」のような優れた映画はもっとありますよと自慢したことだった。このことだけでも当時の日本の映画人にとって誇らしい出来事だったのかが分かる。
旅の侍金沢武弘とその妻真砂、そして盗賊多襄丸が絡む殺人事件の法廷劇にして、三人三様の嘘を証言映像として展開する作劇の面白さ。そこにある自分勝手な人間の赤裸々な姿を暴く視点の鋭さ。熱い日差しと木漏れ日、汗ばむ肌、妖艶な真砂の美しさを表現する黒澤演出と宮川一夫の撮影の素晴らしさ。モノクロ映像のひとつの頂点に位置する映像美。更に、三人の嘘を証言出来ない木こりの盗みを暴く下人の開き直り。そして旅法師の人間不信から、捨て子を引き取る木こりの良心で閉める黒澤監督と橋本忍の練られた脚本の完成度。悪人になり切れぬ多襄丸を三船敏郎が見事に演じて、平安時代の美女を艶やかに演じる京マチ子の熱演と名優森雅之の見栄を張る男の卑しさの表現も素晴らしい。
聖書に誓いを立てて始まる法廷劇に慣れたキリスト教の西洋人は、嘘だけで終わる法廷劇の珍しさと正義の追求というより人間の業と性(さが)についての考察の深さ、そしてエキゾチックなコスチュームプレイに関心を持ったと思われる。日本において心理学が西洋と比べて進まない原因の一つに、日本人は本心を余り明かさないと聞いたことがある。本音と建て前を使い分ける日本人を客観的に捉えたこの黒澤映画は、まさに日本映画そのものであると言えるかも知れない。そんな人間の業を観察し仮面を剥ぎ、尚、人には救いがあって欲しいと願う黒澤監督のヒューマニズムが、国境を越えて広く評価されたのは当然のことではないだろうか。
素晴らしい!
コレが70年前の作品である事に感動
脚本、演出も素晴らしいと思いますが、ここはやっぱカメラワーク
光と影のコントラスト
アングル
これは凄腕
人間は心の闇を誰でも持っていると思う
良い時より悪い時の方が人の本音や醜さ等が見てとれる
今現在、新型コロナウィルスのせいでマスク不足
スーパーのマスク販売に
エサを与えられた鯉のように群がり
押し合い圧し合いをして
あれっ?さっきまで中国人は常識ね〜よな~
って言ってたクセに
たいして変わらないじゃん皆んな(笑)
結局、人は自分さえ良ければイイのだ
がしかし
どこまで理性を
保つことが出来るかは
人それぞれ
その瞬間に希望や情を
感じ取れる者
そこに芯の強さの差があると思う
そしていつの時代も
涙は女の武器である
答えは藪の中
古い映画を見るのは初めてで、最後まで飽きずに見れるかなーと思ったけ...
芥川龍之介の短編小説 『藪の中』と『羅生門』を原作。遺体発見者の嘘...
芥川龍之介の短編小説 『藪の中』と『羅生門』を原作。遺体発見者の嘘はとるに足らない悪で、赤子を引き取った善でその悪は十分帳消しになっていると思います。遺体発見者がつくぐらいの嘘は人間にとっての必要悪だとも思えます。その必要悪を悔いることで赤子を引き取ったならば御の字でしょう。やはり後世に名を遺す作品は人間の根幹・根源の部分をシンプルに描き切った作品だと常々感じます。
京マチ子はこれで出演作を見て2作目です。1作目は市川崑の鍵鑑賞。
時を超えてなお斬新なカメラワーク・映像美と俳優陣の迫力
まさに今
黒澤明生誕110年のタイミングで、NHKが選んで放送するのが、これかと思って、改めて観た。
羅生門の舞台は、平安時代だ。
芥川龍之介の原作で、「羅生門」と「藪の中」を合わせたストーリーなのだが、どちらかというと「藪の中」がメインだ。
そして、背景は「飢饉」と「疫病」の広がる京の都。
しかし、度重なる気候変動による自然災害と、新型コロナウイルス肺炎のパンデミックを考えたら、まさに現代に通じる。
そして、自分の都合でウソを散りばめ、それを正当化しようとしたり、上辺で正義を振りかざしても、実は裏でインチキを厭わない政治家連中を毎日のように報道で目にするにつけ、今の僕達の生きる社会を皮肉っているようにも感じる。
日本の政治はまさに劣化の最中だが、コロナ禍が広がる世界のあちこちの国もそうなのかもしれない。
やれやれという感じだ。
黒澤明は、芥川龍之介の原作をもとに、人間とは所詮、このようなものなのだと言いたかったのかもしれない。
しかし、黒澤明は同時に、人間には良心が残されていて、希望を見出すストーリーも残している。
ハイテクで便利になったが、逆に人間の心が荒んでしまっているように感じることは少なくない。
名前を隠してネットで攻撃したり、言葉の意味も調べず勉強不足のままウソを厭わないバカな連中。
自らを省みるなんて考えることもない。
僕達は現代にあって、希望を見出すことは果たして出来るのだろうか。
ある視点
第12回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作。
第39回ヴェネツィア国際映画祭栄誉金獅子賞受賞作。
Blu-ray(デジタル完全版)で3回目の鑑賞。
原作(羅生門/藪の中)は既読です。
交錯するそれぞれの視点。
浮かび上がるのは真実なのか?
それともただのカオスなのか?
人間の表と裏を象徴するかのように光と影にこだわった画づくりが印象的で、優れたビジュアルセンスだと思いました。
徹底した生々しさもいい。ギラギラした陽光と滝のように流れ落ちる汗、こちらまで暑くなる泥臭さが堪りませんでした。
人間の本性とエゴが炙り出され、それぞれの都合によって書き換えられていく事件の様相と真相。同じ出来事でも見方が変われば三者三様の捉え方が可能で、それが真実を藪の中へと引き摺り込んでしまう。恐ろしいなと思いました。
「三度目の殺人」を初めて観た時も感じましたが、唯一無二の真実と云うものは端から存在せず、当事者や第三者それぞれの中に真実があると云うことかと…。関係者の数だけ真実がある。人間の心の奥深さが浮き彫りになっていきました。
醜いところもあって、美しいところもある。
だからこそ人間は素晴らしいのかもしれない。
[以降の鑑賞記録]
2020/03/28:NHK総合
※修正(2023/04/30)
当時、日本、シェークスピア
価値観は、オセロゲームのように、きっかけさえあれば、ひっくり返る。
それを、セリフにして、舞台にのせたのが、シェークスピアだ、とワタシは思っています。
ところが、当時、日本という世界にはまだまだ未知の国で、こんな映画が作られたとは!
これは世界がびっくりするのも無理はない。
人によって、立場が違えば、自分を守る価値観は違う。それを観る人に突きつける。
舞台となる極暑の森や、豪雨の朽ちた門も、選び抜かれた背景。
しかも、刀を持ってはいても、人を斬るなんて、そうそうできるものではないという情けない行動で、観る人と登場人物が同じレベルだと見せつける。
言葉一つで、欲しがるし、捨てるし、争うし。
特に女性問題は、永遠のテーマですね。。
俳優たちが、この後、七人の侍で、全く別の顔ででてくるのも、みんな驚いたでしょうね。(あ、三船は似たキャラですけど。w)
とにかく、ほかの映画たちとは、一線を画す古典だと思います。
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