「SFグロ・ホラーサスペンス」遊星からの物体X everglazeさんの映画レビュー(感想・評価)
SFグロ・ホラーサスペンス
3度映画化されている原作は未読。
こちらは第2作目。
1982年冬の南極大陸。
ノルウェー観測隊に命を狙われたワンちゃんが、アメリカの観測所に逃げ込んでくる…。
評判通りの面白さ。
“The Thing”の生態は結局よく分かりませんでしたが、正体不明だからこそ恐怖に駆られ、連絡・移動手段の断たれた閉鎖空間で疑心暗鬼に陥る隊員達の様子に、最後まで目が離せません。偽物はコイツか?いや、コイツか?!と、こちらも1人1人を疑って見てしまいます。
同化時や擬態解消?時に現れる”the Thing”の出来栄えが素晴らしいです。当時21歳でクリーチャーを担当したRob Bottinは、1年以上休むことなく制作しその後過労で入院したそうですが、力の入れようが尋常ではありませんね。血塗れ、苦悶表情、ヌルっとした蛇・ミミズや多足類、蜘蛛、毒々しい緑色・黄色など、(中には好きな人もいるでしょうが)多くの人間が本能的、生理的に苦手とする要素をこれでもかと詰め込んでいます。こういう「嫌われ者」に対する制作者の愛すら感じました。腸と言って取り出したものが、(ヒトとして)異常なしという割には小さ過ぎて人間ぽくないのですが、あの解剖シーンには本物の動物の内臓を使ったそうです。
謎解き要素も満載!
1. ノルウェーワンちゃんが襲った影は誰だったのか。
監督は人物を特定させたくなかったため、あのシルエットは登場人物以外のものだそう。よって分からないことが正解なのですが、何度も見返して間取り図まで書いて考察してしまいました😅。同じことをした方々がネットに図を掲載しておられますが、どれとも一致せず…あれれ?🙃
米隊員12人 一覧
MacReady
Bennings
Blair
Clark
Childs
Doc (Dr. Copper)
Fuchs
Garry
Nauls
Norris
Palmer
Windows
隊員の寝室が並ぶ廊下:
[ア]BenningsがNaulsに音量を下げるようインターホン越しに注意するシーンと、最初の警報が鳴って休憩中の隊員達が慌てて廊下に出てくるシーンでは、廊下沿いに並べられている小物が大体同じで、
左側の奥から、
①DocとFuchsの相部屋
②BenningsとBlairの相部屋
③誰かの部屋
右側の奥から
④Windowsの部屋
⑤Naulsの部屋
⑥ChildsとPalmerの相部屋
であることが分かります。
③は⑥の向かいです。
Benningsに呼ばれたChildsが、慌てて身支度してる時だけ③室内の様子が見えます。
[イ]ワンちゃんが入ってくる時は、廊下の小物が随分変わっており(経時的には[ア]のシーンの間)、特に灰色のドラム缶の位置から、最初は[ア]とは反対側から廊下を撮影している(つもりな)のかと思っていましたが…、
天井の配管を見ると、[ア]も[イ]も撮影カメラの位置は多分一緒であり、同じ方向から廊下を見ていると分かりました。
で、最後まで観ると、影の正体はPalmerかNorrisということになります。
(Blairにしては髪がフサフサで眼鏡をかけていない。)
Palmer説
○ ワンちゃんは娯楽室で、PalmerとNaulsを見つめている。どちらにしようかなと言わんばかりに。
○ [ア]と同じ方向ということなら、ワンちゃんは②の部屋の前で立ち止まり、(Bennings は睡眠中だから?) ③のPalmerを襲った。
× しかしPalmerの部屋だとすると、Childsのベッド側の壁に写真やポスターが飾られていない。
Norris説
天井の配管はともかく…、もし反対側からワンちゃんが入って来たと仮定すると、
③の部屋に入った可能性が出て来ます。
ここがNorrisの部屋か、誰かと相部屋だったのかは分かりません。ワンちゃん変身時、既にNorrisは犬小屋に来ていました。Palmerが廊下に出た時、③の扉は閉まっていますが、その後誰か出て来たのか開いています。内装はあまり映っていませんが、⑥の部屋よりはスッキリしていそう?
(廊下に寝室が何個あるのか分からないので何とでも言えるのですが、もしも[イ]で映る灰色のドラム缶が[ア]で⑤と⑥の間にある物と同じなら、⑥の前で立ち止まって②の部屋に入ったことになります。BenningsではないとするとBlairになりますが、影の形や後述する理由でBlair説はボツにしました。)
また、犬小屋で真っ先に消火に当たるのはPalmerとNorrisです。
2. 誰のシャツか。
キッチンに捨てられていて、Naulsが発見した汚い灰色のシャツ。
支給品なのか、ほぼ全員服の下にそれらしき物を着ていました。1人数枚持っていてもおかしくないので、無駄な確認となりますが、Norrisは犬小屋のシーン以外は襟付きを着ていて、シャツが見えません。心臓マッサージの時も着ていません。PalmerとBlairはずっと着ています。
MacReadyがメッセージを録音している時、Windowsがシャツを見付けたと言っているので、てっきりまた別のシャツが捨てられていたのかと思ったのですが、これは脚本ミスのようです。
3. 鍵はいつ誰が手に入れたか。
Benningsに言われて、WindowsがGarryから鍵を借りますが、Benningsの同化を見て鍵を落とします。(ちなみにWindowsは、戻って来た時に下のシャツを着替えています。)Bennings焼却時に地味に不在なのはBlairとClarkです。屋外で保管庫の話になり、Garryが鍵をDocに渡しますが、そもそもGarryの元にどうやって鍵が戻ってきたのかは分かりません。Garryしっかり〜。
誰が輸血バッグを破損させたかで口論になるシーンでは、Palmerは後ろの方にいて、ほとんど映りません。なんかちょっと怪しげ。
4. 誰がラボの停電を起こしたか。誰がMacReadyを嵌めようとしたか。
Norrisは保管庫の件で怪しまれていたClark, Doc, Garryの3人を娯楽室でChildsと見張っていましたので、外へ出れたのはPalmerということになります。MacReadyのシャツを仕込むことが出来たのもPalmer。締め出されたMacReadyが戻ってくると、Palmerだけが焼き殺す気満々です。
FuchsはPalmerを追って襲われたのかなと。
Blairはいつどこで取り込まれていてもおかしくありません。発狂時は同化に抗っていたのか、単なるパニック状態なのか。私は後者だと思いました。犬と長く接触していたClarkをずっと疑っていたし、小屋に首吊り縄を用意していたので、少なくとも軟禁される時は人間性を保てていたのかなぁと思いました。
Fuchsを見なかったか?会わなかったか?とMacReadyに聞かれて、Blairは
“It ain’t Fuchs.”
と答えています。
会ってない、来てない、ではなくて、
Fuchsじゃないと。
ということは誰か別の人には会った可能性があります。Palmerが(Fuchsの代わりに)、小さい扉からBlairを同化したのかも知れません。
5. どの順番で襲われたのか。
Norrisに症状が出始めるのは、Fuchs捜索後です。もしPalmerが先なら、停電時に同化されたのか?
以上から、
犬 → Palmer ⇄ Norris
→ Fuchs, Blair
→ Windows
焼死体 → Bennings
という流れかな?
ノルウェー観測所捜索への立候補が却下されずに、そのままヘリを飛ばすことになっていれば、Palmerの運命は違ったかも?!
明るくても同化するんだなぁとか、ガウンも着ずに解剖するかい、メスの刃も変えないのかい、そもそも指を傷付ける時に変身するだろうとか、除細動器も食べちゃったのかとか😁、意外と穴だらけのような気もしますが、そこがむしろあれこれ楽しめる要素になっていると思いました。
ノルウェー観測所は、アメリカ観測所セットの焼け跡で造り、最後に撮影したとのこと。MacReadyはあそこで自らの運命を見ているようでした。
冒頭のノルウェー語。
ノルウェー人からするとネイティブではないそうです。
“Se til helvete og kom dere vekk! Det er ikke en bikkje, det er en slags ting! Det imiterer en bikkje, det er ikke virkelig! Kom dere vekk, idioter!”
英訳
“You get the hell away! It’s not a dog, it’s some sort of thing! It imitates a dog, it isn’t real! Get away, you idiots!”
ノルウェー語が理解できたらネタバレか?!でも何のことだか、普通はすぐに分かりませんね。
名演技のワンちゃんJed君は、狼とマラミュートのハーフ!でもヘリの下で雪原を走っていたのはJed風メイクを施された別のワンちゃんだそうです。とりあえず楽しそうに走っていて何より。
断定的でない、こういう終わり方も良いと思いました。
細部にまで拘ったグロテスクなクリーチャー達の一方で、見せない演出の素晴らしさを体感できる作品でした。